何でもいいから、500円くれよ!!

日記・好きな事の考察や感想・オリジナル小説等を書いていきます。

神戸のアプリ会社と焼肉丼

旅の途中、学生時代にお世話になっていたアプリ開発会社に友人のKと共にご挨拶に行きました。
社長とは卒業以来6年3ヶ月振りの再会となりましたが、変わらずお元気そうで朗らかな笑顔で迎えてくれました。
ここまで世の中にアプリが浸透するとは、手伝っていた学生時代は正直想像もしませんでした。今やどこにいってもなんでもアプリですもんね。
アプリ開発会社様の今後ますますの発展を祈っております。

さて、話は変わりましてグルメな話題。
夕飯時、社長から「さ、飯行きますかっ」と誘われました。
どこか行きたい場所あるか問われたんですが、会社に向かう前にKと事前に決めていました。
神戸元町にある『おぼや』という焼肉丼屋さんです。

obo-ya.com

過去にKが社長と1回だけ行ったことがあるらしく、なかなか美味しかったらしいので僕も興味が湧きました。
神戸の焼肉丼と言えば『十番』しか知らなかったので、新規開拓するつもりでここに決めました。

会社から徒歩5分くらいでお店に到着。
店内には野球選手のサイン色紙が大量に飾られていました。
パワーつけに来るんでしょうね。

メニューを見ると、焼肉丼の他にもひつまぶしやビビンバ(おぼんばと言うらしい)、ミンチカツやコロッケ等の一品物もありました。
ちょっと目移りしちゃいましたが、まあ初回なので基本の焼肉丼を食べることにします。
チェーンの牛丼屋のようにサイズを選べるのですが、その中に『超特盛り!メガおぼ丼』というパワフルな項目がありました。
並盛りの約2.6倍の値段で肉が並盛りの3倍

ブログネタとしても、旅の思い出としてもここはこいつを食べておきたい。
でもお金も節約しなきゃいけないしなぁ…なんて思っていたら、社長さんから
「メガ丼挑戦するの?」とお声がかかる。
僕は「興味はあるんですけど、お金も節約しなきゃいけませんしね」と答えました。
すると「僕が出すから、遠慮せず思いっきりいこうよ!」と背中を押され、勢いで
「じゃあ、メガ喰います!!」と言ってしまった。

で、数分後に来たのがこれ。

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これだけで見るとわかりにくいですが想像以上のビッグサイズ。
左利きなので箸の向きを変えて撮影したんですが、ロゴが上下逆になってるのに気がつかなかった。

僕の隣でKが並盛りを注文したんですが、それと比較すると3まわりくらい大きい。
並べた比較画像を撮らなかったのもうかつでした。

内心、(やべーの来ちゃった)と思いました。プロレスラーとかそれこそ野球選手がスタミナつける為にガッツリ喰うってならこの量も納得ですが、インドア生活が板についた色白ガリガリ小食おじさんにはあまりに不釣り合いすぎる。

しかし、出していただく以上残すわけにはいきません。
井原満を憑依合体させ1人フードファイトが始まります。

口いっぱいにごはんと肉を頬張ると、甘辛い特性焼肉ダレで味付けされた柔らかい牛肉からあふれ出すジューシーな肉汁がふっくらほかほかの白飯に浸透して、食欲を増進させていきます。


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画像はイメージです。

満腹中枢が襲う前にとかなりハイペースで食べ進めます。かなり美味しいのでいけるかなと思ったんですが、さすがに量が多すぎて「まだ終わりが見えないのか」というせな地獄を体験します。

そして1時間弱の格闘の末、無事完食しました。
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完食後はちゃんと500円玉で比較画像を撮影しました。

 

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これがKが食べた並盛り

 

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僕が制覇したメガ盛り

大きさの違いが少しでも伝われば良いなぁと思います。

はち切れそうなお腹を抑えつつ、社長に感謝してお別れしました。
本当にありがとうございました。今後ともよろしくお願いします。

それにしても『おぼや』良いお店でした。丼が美味しかったのはもちろん、内装も綺麗なので女性でも安心して入れます。神戸に立ち寄った際はみなさん是非足を運んでみてくださいな。

 

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<お店の情報>

店名:精肉屋の焼肉丼 おぼや 元町店

場所:神戸市中央区北長狭通4-2-6

アクセス:JR「元町駅」東口山側へ徒歩約1分、ファミリーマートの西側の角をまがりすぐ

電話番号:078-599-6778

FAX:078-599-6779

営業時間(平日): 11:30~14:00 17:30~23:00(22:30 L.O.)

営業時間(土・日・祝日):11:30~15:00 17:30~23:00(22:30 L.O.)

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あ、井原満の名前を出したのでこれだけは最後に言わせてください。

 

 

 

 


俺の胃袋は宇宙だ。

次の日壮大な胃もたれに悩まされた★

オリジナル小説『友達100人できるかな?』第6話

これはおじさんのオリジナル小説です。

毎週水曜日の21時更新を予定しておりますので、暇つぶしに良かったら

見てってくださいまし。 

*前回のあらすじ*
サキの電話で指示された方角へ向かうと廃墟の神社があり、かろうじて残っていた納屋の中には白骨死体が頭を垂れていた。神社から車へ戻る途中、たくさんの視線を感じた2人は獣道を早く抜けようと走り始める。もう少しで車に辿り着くというとき、ぬかるみに足を滑らせた麻弓は急斜面を滑り落ちていった。

第6話 <100人目の友達>

 腐葉土がクッションになったおかげで大きな怪我はしていなさそうだが、あちこち擦り傷が出来た。見上げると、5mほど頭上から浅山さんが心配そうにこちらを見ていた。

「おーい!大丈夫かー!?」

 浅山さんが口の周りに手を当て、大声で呼びかけてくる。私は簡単に自分の体を確認し、

「なんとか大丈夫でーす!!」

 と浅山さんと同じく口の周りに手を当てて返事をした。

「車の中にロープがあるから、そのまま待ってろー!」

 そう言った浅山さんは一旦その場から立ち去る。待つ間、斜面を背もたれにしてぼーっと空を見上げていると、目の前にある山の岩肌が切り立った崖になっているのが見えた。自分たちが最初に調べたあの崖だろうか?上から見たときは下の様子は全く分からなかったが、意外とすぐ近くのようだ。あの真下に行けば、サキに関する何かが見つけられるかもしれない。はやる気持ちを抑えて浅山さんを待った。
 しばらく上を見て様子をうかがっていると、浅山さんが顔を見せた。早速ロープを落とそうとする浅山さんに、私は自分の考えを伝えようと声を張る。

「すみませーん!この先が、最初に見た崖の真下になっているかもしれないので、何か無いか調べたいでーす!」

「1人で大丈夫かー?」

「ここから近そうなので、ちょっと見たらすぐ戻りまーす!!」

 浅山さんからの返事にやや間が開く。どうしようか考えているようだ。

「………わかった!ただし、2時間以内に戻ることと、ここを見失う程遠くには行かないこと!」

「わかりましたー!」

 続いて先ほど目印に使っていた赤い紐の束が投げ渡された。

「念のため、こいつも渡しておく!2時間も経てばもう日が暮れ始める!そうなると目印もあまり意味が無くなってしまう!必ず2時間以内で帰ってくること!……いいね!?」

 赤い紐を握りしめて、私は大きく頷いた。

 紐の束が残り3本になったところで、ついに崖の真下に辿り着くことが出来た私は安堵のため息を漏らした。スマホを確認すると、時刻は15時32分。移動時間を考えると、ここを探索出来るのは1時間くらいか。
 とりあえず崖沿いを歩いてみる。崖に手を触れると、無骨で冷たい岩の感触。上を見ると岩の間からまばらに短い木が生えている。崖の天辺がどうなっているのかはわからないが、少なくとも都内の超高層ビルくらいの高さはありそうだ。
 しばらく歩いていると、目の前に山の景色とは不釣り合いな色合いの何かが落ちているのが見えた。よく目をこらしてみてそれが何か分かったとき、思わず腰が抜けてしまった。
 それは赤いダウンジャケットを来た成人男性の死体だった。同じ死体でも納屋で見た白骨死体とは訳が違う。肉体がほぼ残っている死体というのは精神的ショックが大きすぎる。辺りには異臭が漂い、死体の周りを小さい羽虫が飛び回っていた。
 私は吐きそうになるのをこらえながら一端崖下から離れ、近くの木の幹に寄りかかった。頭がくらくらする…気を抜くとそのまま倒れてしまいそうだ。額からじっとりとした嫌な汗が噴き出している。手でそれを拭い、冷静にこの状況を分析しようと、深呼吸をして目を閉じる。

(……あれは、自殺?事故…?それとも………)

 3ヶ月前の自分の体験を思い出す。あの時と同じ事が、赤い服の人にも起こっていたとしたら……原因は………。

「……………………そう……私がやったのよ」

 聞き覚えのある少女の声が鼓膜を刺激した。目を開けると視界いっぱいにサキの人形のような笑顔が飛び込み、私は小さく悲鳴をあげた。探し求めていた存在だが、こんな形で再会するとは思わなかった。

「…………あの時、あなたもそうなるはずだった」

 表情を一切崩さず、サキは続ける。

「ずっと待っていたんだから。だって私たち……トモダチですものね…………。」

 そう言うと、それまで小さなつぼみのようなサイズだった口が、不気味に吊り上がり耳元まで裂けた。私は唖然としてしばらく言葉が浮かばなかったが、緊張で溜まった口の中の粘ついた生唾を一飲みし、

「……どうしてこんな事するの?」

 ようやく一声出すことが出来た。

「……………カクマ様との約束だから……」

 確か同じような名前を、夢で見た白い空間にいた少年も言っていた。一体誰なんだろう?

「ねぇ……麻弓は『1年生になったら』って歌知ってる………?」

 考えていると、今度はサキの方から声をかけてきた。

「………“1年生になったら、友達100人出来るかな?”ってやつ?」

 私はサキの様子をうかがいながら慎重に声を出す。

「私には…………1年生になっても友達が出来なかった………。ただの1人も…………。私は誰の心にも触れることが出来なかったし、誰も私の心に触れることは出来なかった」

 そう言うサキの瞳は、真夜中の黒猫のように漆黒を纏っていた。その瞳の色を、私はどこかで見た気がする。

「いつの頃か…私は気がついたら、この山にいた………。ひとりぼっちで………心細くて………本当に寂しかった………。そんな時、声をかけてくれたのがカクマ様だった…」

 サキの目元が少し緩んだ。私は黙って話を聞く。

「…………私はカクマ様からありがたい力を授かり『トモダチを100人作る』事を約束した………。そうすれば私はこの山から出られると………カクマ様は言った」

 サキが今まで見せた不思議なことは全て『カクマ』という人の仕業だったのだろうか?サキは赤いジャケットの死体を指さすと、

「……………そこにいる彼は私の99人目のトモダチ。………………そしてあなたが…………………………」

 サキはその細い両手を私の首に絡ませる。

「念願の『100人目』になるの………………」

 少女とは思えない強い力で、うめき声を上げる余裕も無く私の首は締め上げられていく。振りほどこうとサキの手を掴み、必死に抵抗した。しかし引っ掻いても叩いてもその力は緩まることは無い。視界の端がチカチカと瞬き、全身ががくがくと震えだした。そう感じたすぐ後、徐々に目の前が霞んできた。……………遠のく意識の中で、私は思った。

(ああ………私、死ぬのか………唯一の友達だと思った人に殺されるなんて、なんてろくでもない人生だったんだろう…………ごめんなさい…お母さん、心配してるよね………。ごめんなさい…浅山さん、危険なことはしないって約束したのに…………。ごめんなさい…井川さん、私たちが探し求めていたサキは…サキは………)

 死が近い事への恐怖や、目的が果たせなかった無念さ、サキに対する複雑な想いが絡み合い、目から涙が次々とあふれ出てくる。私の涙がサキの手首を濡らしたとき、突然首を掴む力が緩み、私はその場に崩れ落ちた。急に呼吸が出来るようになって何度か咳き込んでいると、サキは頭を抱えて苦しみだした。

「………オ……ヵア………サ……ン?………グッ………ガアァ!……………ギィィ……」

 目を見開き、よだれを垂らしながらしばらく悶え、頭を抱えたまま空を見ると、周りの生き物が全て逃げ出すようなサキの絶叫が木々を揺らした。その場で体をくねらせながら唸るサキをしばらく見ていた私だが、今が逃げるチャンスだと気づき一目散にその場を駆け抜けた。

 体力の限界が来るところまでひたすら走り続けた後、一旦立ち止まって周りを見渡すと、サキの姿はない。ひとまず助かった………と私は安堵のため息を漏らした。でも良いことばかりでも無い。何も考えずに走ったせいで、目印の木を完全に見失ってしまった。
 もうサキのことは諦めようと思っていた。そりゃサキの寂しさや悲しさが分からない訳でも無いし、私も似たような孤独を感じてこれまで生きてきた。井川さんと約束した以上、サキに関する何かしらの手がかりが見つかると良かったのだけれど、彼女は私の想像以上にやっかいな事になっているようだ。今は浅山さんと合流し、一刻も早く山を出たいとそう考えていた。
 しかし、どこを見ても同じような木が並ぶばかりで目印になるような物は何も無い。太陽の傾きで方角だけでも知りたかったが、日が暮れかかって木々に囲まれたこの場所では太陽がどこにあるかすら分からない。闇雲に動いて体力を消耗する訳にもいかないので、その場で立ち止まってしばらく考える。
 でも戻る方法を考えていたはずなのに、気がついたらサキのことばかり考えていた。

(……あの時、なぜサキは手を緩めたのだろう。確か私が井川さんの事を考えている時だった……その想いがサキにも伝わり、お母さんの事を思い出して、力が抜けた………)

 思えばサキには二面性があった。私と遊んでいたときのぎこちないながらも可愛らしい笑顔や、電話で助けを求めてきた少女らしい一面と、何を考えているのか分からなくて、平気で人を殺せる悪魔のような一面。
 あの子は『カクマ様に力を貰った代わりに友達を100人作る事を約束した』と言っていた。友達……つまり自分と同じ幽霊を作るために人を殺すことを、彼女自身は本当は望んでいないんじゃ無いか?彼女が見せる狂気の面は、カクマという人物の力によって洗脳や憑依のような“操り人形”のような状態になっているから?お母さんのことを思い出しかけて悶えていたのは、本当のサキがカクマの呪縛から解き放たれようと抵抗していたから…?
 だとすればあと少し、サキの生前の記憶を取り戻す何かがあれば………彼女の魂は解放されるかもしれない。諦めようとしていたのに、気がつけばまだサキをどうにかしたいとばかり考えている自分が自分でよく分からない。
 サキの生前に関する手がかりは何か無いか………私はサキに出会ってから今までの出来事を一つ一つ丁寧に思い返してみる。出会った時のこと、病院での電話、井川さんの家…そこまで思い返したとき、一つ思い出した。そうだ、くまのぬいぐるみだ。
 確か失踪した日も彼女は大事そうに持っていたと井川さんは言っていた。しかし今のサキは何も持っていない。崖から落ちたとき離ればなれになったのか?そのぬいぐるみをもし、見つけることが出来れば………よし、ぬいぐるみを探そう。何の宛も無いけれどサキを取り戻す最後の希望を、私は諦めたくない。

 辺りがだいぶ暗くなって来た。浅山さんとの約束の時間はとっくに過ぎているだろう。戻れたら、思いっきり謝らないと…。
 私は浅山さんから借りていた懐中電灯をつけた。納屋で使った後カバンに入れてそのまま返し忘れていただけだが、こんな形で助かるとは思わなかった。一定の間隔で、手頃な木にナイフで傷をつけ、目印にしていく。私なりに考えた迷わない方法だ。カバンの中には他に救急道具と、水筒、そしてわずかな食料が入っている。全て今朝浅山さんからアドバイスされて支給された物だ。私は浅山さんに心の底から感謝していた。たった一人ではとてもここまで気力も湧かず、知恵も足りなかっただろう。
 とはいえ、もうすぐ冬がやってくる肌寒い野山を何時間も歩き続けてさすがに体力は限界だった。足の色んなところが痛いし、空腹と寒気で今すぐにでも倒れ込んでしまいそう。

(…………駄目だ、ちょっと休もう。)

 そこそこ周りが見渡せるような場所に座れそうな石を見つけたので、腰掛けて少し休憩することにした。しかし数分後、私は座ったことを後悔する事になる。
 座った直後は休憩出来て一安心と思っていたが、自分が思っていた以上に疲れていたようで、今度は立ち上がることが出来なくなってしまった。木々を抜ける風はこんなに体を冷やすのに、ずいぶん前から空腹で胃がキリキリしているのに、頭の中は『眠い』ということしか考えられない。
 ああ…まぶたが重い……頭が上がらない…………。

 ……………………。
 気がつくと、私はまた真っ白な空間に来ていた。あの不気味な少年に会ったらどうしよう…恐る恐る辺りを見渡す………良かった、誰もいないみたいだ。

「またきたね」

 ほっとした私の首筋に、生暖かい息がかかって全身が縮み上がる。振り返ると、ボロ布を纏ったボサボサ髪の子供がニタニタと笑っていた。蛇に睨まれた蛙のようになっている私にお構いなしに子供は話し続ける。

「『かえれ』ってあれだけいったのに…だれだってカクマさまにはさからえないんだから」

「あ、あなたは誰なの?」

 勇気を出してようやく声を出した。

「ぼくは、サキとおなじやくそくをカクマさまとしていたんだけど、やくそくまもれなかったから、ここにつれてこられた…カクマさま、とわにとじこめるっていってた」

「閉じ込められているの?ここは一体どこなの?」

「わからない。どこまでいってもなんにもないしろいへやさ…たしかめてみるかい?」

 少年は笑う。私は少年、サキ、そしてカクマの関係性を知るために、さらに質問してみた。

「あの、カクマっていうのはどういう人物なの?」

「カクマさまは、むかしはやまのかみさまだったんだ。ぼくはやまをまもるいえにうまれて、いえのちかくにはカクマさまをまつるほこらがあった」

 私は無言で頷く。

「あるひ、ぼくなにがはいっているのかきになって、カクマさまのほこらのとびらをあけてみたんだ。かみがはってあったんだけど、それはがしてさ。そしたらまっくろなかたまりがなかからとびだしてきて、そいつがじぶんのことを『カクマ』だといったんだ」

 少年は身振り手振りで説明する。

「カクマさまというのはむかしころされたおとこのおんねんと、もともとまつっていたやまのかみさまがあわさってできたものっていうのを、そのあとおばあちゃんからきいた」

「飛び出してきて…どうなったの?」

「それからはふこうのれんぞくさ。さくもつはそだたないし、びょうきははやるし、いえをでていったひとはじこでしんだときくよ。それでカクマさまのたたりをしずめるために、ぼくはいけにえになった。てあしをしばられて、ははうえのてでたきつぼにおとされた」

 真剣な表情で話す少年に、私は息をすることも忘れていた。

「そしてきがつくと、カクマさまがめのまえにいて、ぼくにこういった『おまえはわたしとおなじだ。くやしいだろう?にくいだろう?わたしのちからをかしてやる。そのかわりおまえはそのちからでともだちをふやせ』って」

 だんだん話が見えてきた。サキもきっと、同じ目にあったのだろう。

「でもぼくはこころもちからもよわかったし、なによりひとをころすなんておそろしくてできなかった。なんねんもだれもころさないでいると、なんにんかぼくとにたようなこどもがカクマさまのもとへあつまってきた。なかにはころすことがすきでたまらないってやつもいた」

 少年は「信じられないよね」というそぶりで両手をあげる。

「ほかのなかまがやまにはいってくるひとたちをころすことになれてきたとき、サキがやってきた。サキはほんとうのおねえちゃんみたいにぼくにたいしてやさしかったし、ひとをころすこともためらっていた。けど、それいじょうににんげんのこともにくんでいたから、カクマさまのちからをおおくうけちゃったみたい。えいきょうがつよいときは、だれよりもためらいなくころせるようになってしまった」

 私の推測は割とあたっていたようだ。

 

                                         To be continued...

オリジナル小説『友達100人できるかな?』第5話

これはおじさんのオリジナル小説です。

毎週水曜日の21時更新を予定しておりますので、暇つぶしに良かったら

見てってくださいまし。

*前回のあらすじ*
登山家の浅山昇と接触に成功し、一緒に騒動の発端である崖まで調査に来た麻弓。しかし森林が広がるだけでサキに関する手がかりは何一つ掴めそうもなく、諦めて帰ることに。しかし、帰る途中カーナビが狂ってしまい道に迷って山を出られなくなる。完全に日も暮れ、燃料も少なくなってきた所で浅山が車中泊を提案した。

第5話 <白の世界>

 真夜中、私は不意の尿意で目を覚ます。エアコンを切られた車内はよく冷えていて思わず身震いした。スマホの画面を見ると、時刻は午前2時になろうとしていた。ちょっと怖いけど、その辺で用を足そうと浅山さんの懐中電灯を借りて車外に出る。
 ふと上を見上げると、たくさんの星達が夜空に浮かんでいる。周りに灯りが一切無いせいだろう。いつもの10倍増しぐらいには鮮やかだ。見とれて思わず息を吐くと、白い塊が空に登って消えていく。吐息ってなんだか魂みたいだな、とちょっと思った。魂見たこと無いけど。
 懐中電灯で辺りを照らすと、右車線の向こう側の舗装されていない地面にちゃんと踏み込めそうな場所を見つけ、私はガードレールを越えた。

 すっきりし、車に戻ろうと立ち上がったその時、山に入って一度も使えなかったスマホが急に鳴り響いて私は一人で声を上げた。画面を見ると井川さんの番号……この時間と言うことはつまり、サキだ。ずっと探し求めている相手だけれど、向こうから急に来られるとさすがにビビってしまう。いやいや、これはチャンスだ。サキが私に発見のヒントをくれるかもしれない。私は意を決して、通話ボタンを押した。

「…………もしもし?」

 鼓動がうるさいくらいに高鳴っている。

「やっぱり……来てくれたのね………」

 この前の電話とは違い、サキの声はクリアに聞こえる。

「サキだよね?今どこにいるの?何をしているの?」

 安心した私は、矢継ぎ早に質問を繰り出す。

「右………」

 言われたとおり右を見ると、遠くで何かがぼんやりと光っているのが見えた。

「嬉しいわ…………あなたが来てくれるの………私はずっと………待っていた」

「あの光は何?そこにサキはいるの?」

「フフフ…フフフフフ……さあ、早く………こっちへいらっしゃい………」

 会話になっているようないないような……なんだかもやもやするやりとりで一方的に通話は終了した。どっちにしろ、あの光の先に何かがあるのは間違いない。確かめなければ。はやる気持ちを抑えて、私はまず浅山さんを起こすことにした。前みたいに気がついたら崖だったなんてことが無いように、慎重に行く。
 後部座席用のスライドドアを開けて、寝ている浅山さんを揺り起こす。

「ん………?どうしたんだい?」

「さっき、サキから電話がかかってきました。あの光を見ろと言っていました」

 私は光の差す方を指さす。

「へぇ……本当だ」

 浅山さんは目を擦りながらつぶやいた。

「私、行って確かめてみたいです。一緒に来てくれませんか?」

「え?今から?」

「もちろんです」

 さも当然、と言う風に私が答えると、浅山さんは腕を組んでなにやら考え始めた。数秒間が開いて、浅山さんはようやく口を開く。

「明日の朝にしよう」

 冷静な口調で言われた。

「でも…確かめたいんです。なんとなく、あの光が出ているうちに………」

 私は必死に反論した。でも全てつたなくて、子供のわがままでしか無かった。

「夜の野山は特に危険だ。お互い命の保証は出来ない」

「だって……だってサキが…」

 サキに関する手がかりがすぐそこにありそうなのだ。簡単に引き下がる訳にはいかない。

「言うことを聞きなさい!」

 強めの口調で怒られてしまった。私はむくれて、そっぽを向いた。怒られたことの恐怖のせいなのか、望みが叶わない苦しさのせいなのか分からないけど、目に涙が溜まっているのが自分でもはっきりと分かる。

「…ごめんよ。でも万が一君に何かあったら、親御さんに顔向け出来ないからね。大丈夫。光の方角さえ覚えておけば、明日の朝からでもゆっくり確かめられるさ」

 私の肩を優しく叩きながら、先ほどとは真逆の包み込むような柔らかい口調で浅山さんは説得してくる。そっぽを向いたまま小さく頷いた。

「だから、今日の所はもう寝よう」

 荷台まで誘導され、毛布を掛けられた。

 寝る体制に入って1時間くらいたった頃だろうか。興奮した気持ちが静まり、ようやくまどろんできたところで、今度は強烈な悪寒がして目が覚めた。……体が動かせない。目だけが左右にかろうじて動くだけだ。
 浅山さんの方を向くことは出来ないが、いびきをかいている音が聞こえるのでそのまま寝ているのだろう。口も開かないので声も出せない。私は少しでも状況を把握しようと必死に目玉を動かす。 一瞬、まぶしい光が外を包み込むと今度は強烈な風がガラスを叩く。しばらくして一筋の光が私の所まで伸びてきた。サキが電話で言ってきた光の方向からだ。光は最初、裁縫針ぐらいの太さだったけど、ゆっくりと左右に広がって一人分の幅になり、その光の道を『何か』が移動してこちらに近づいてくる……妙だ。寝ている体制で外の様子は何も見えないはずなのに『得体の知れない何か』は確実にこちらへ向かってきているという感覚があった。
 全身に鳥肌が立ち、相当冷え込んでいるにもかかわらず汗が止まらない。本能が『ヤバい』と警告している。そういえば、さっきから視線も感じる。1つや2つじゃない。数え切れないほどのたくさんの視線をあちこちから感じる。私は今何に見つめられているんだ?
 『何か』との距離感がいよいよ車の前まで迫ってきた。ガラスの向こうに真っ黒い影がゆらゆらと揺れているのが見える。影は中に入ろうとしているのか、窓ガラスを手のひらでべたべたと触っている。顔を背けることも目を閉じることも出来ない私は目の前の状況から逃げ出したくてひたすら頭で「どっかいけ!」と念じていた。
 最初べたべたと触るだけだった影が、今度は力強くガラスを叩き始めた。鈍い音が車内に響く。これだけ騒がしいのに、浅山さんは一向に起きる気配が無い。あるいは浅山さんの身にも何か起こっているんだろうか。
 恐怖を感じながらも影の行動を見つめていると、夜の闇に紛れる黒い影に浮かぶギラギラとした鋭い目が私を睨んでいることに気づいた。目が合ったと思った瞬間、影が車の中に入ってきて寝ている私の上に馬乗り状態になった。重さは感じない。先ほどよりも近い距離で見つめ合う影と私。瞳の奥をじっと見つめると、お母さんにこっぴどく叱られたり、大切にしていたアクセサリーが盗まれたり壊れたりした時のような嫌な気分を何倍も増幅させたような感情が複雑に絡み合って同時に私の中に入り込んできた。次の瞬間、頭の奥で爆竹が弾けたような衝撃が走り、目の前が真っ白になっていく………。

 ………………………。
 …………ここはどこだろう……………?
 気がついたら、私は何も無い白い空間に倒れていた。周りを見渡しながら起き上がると、頭の奥がズキズキと痛む。本当に何も無い。床も天井も真っ白なせいか広さすら把握できない。今まで何をしていたのか、その記憶すらあやふやになっている。当てもなく歩いていると、遠くの方で人影が揺れているのが見えた。
 近づいて見ると、それは長い黒髪を無造作に生やした子供の後ろ姿だった。私に背を向けて、何も無い空間のどこかをボーッと眺めているようだ。

「君、何してるの?」

 私は背中越しに声をかけたが、何の反応も無い。少年の顔を見ようと正面に回り込んだ。その目には輝きは一切無く、頬はこけ、目は窪み、鎖骨がくっきりと浮かんでいる。まとっているボロボロの布きれから飛び出す手足は、ゴボウみたいに浅黒くて細い。

「ねえ、ここはどこなの?大丈夫?」

 警戒しながらも、少しずつ近づく。微動だにしないので生きているのかどうかも分からない。ついに手が届くところまで来てしまった。私はそのまま肩に手をかけてみた。

「…………か…え…れ…」

子供は消えそうなかすれ声で一言呟いた。私はすかさず聞き返す。

「帰れ?一体どういうこと?君、名前はなんていうの?」

「……『カクマさま』には…さからえない……。だれにもサキは…たすけられない」

 私の声は聞こえていないのか、子供は前を向いたままぶつぶつと言葉を続ける。呟くうちに子供の肩が震え始め、だんだん大きくなり全身で痙攣しているような状態になった。ビックリした私は2、3歩後ずさり、様子を見る。

「くやしい…くやしい…ぼくが…もうすこし…しっかりしていれば………」

 少年の目から、真っ赤な涙が溢れていた。それを見て私は小さく悲鳴をあげる。

「……うう、だめだ…たもって…いられない………………」

 その場にうずくまった少年は、腕を伸ばして私の腰を掴んで必死に私の顔を見ようと頭を持ち上げる。少年の震えが空間全体に行き渡ったように真っ白な空間がぐにゃぐにゃしているのを感じた。

「これいじょうは…きけんだ。はやく……かえれ…」

 血の涙で染まった顔で訴えかけられて、私は全身が身震いする。

「…げんかいだ……………くずれる」

 そう呟いた瞬間、少年は白目をむいてその小さな身体からは想像も付かないような絶叫を辺りに響かせ、私は思わず耳を塞いだ。同時に、白い空間に黒い空間が入り交じってきて、瞬きを素早くするような感じで視界がチカチカしてくる。白の中に黒が混じる間隔がだんだん短くなってきて、最終的に白を認識できなくなったとき、私の意識はそこから別の世界へ飛ばされた。

 目を開けると、暗い灰色の天井がまず飛び込んできた。体にまとった薄い毛布の感触。窓の向こうが明るくなっていて、嫌と言うほど見た山の木々が広がっている。不思議な夢だったけど、とても恐ろしかった…私はホッと胸をなで下ろす。

「大丈夫かい?酷くうなされていたようだけど…」

 横を見ると、浅山さんが心配そうな表情でこちらを見ていた。

「浅山さん…おはようございます。すごく変な夢を見ました…」

 全身が嫌な汗をかいていて気持ち悪い。昨日も入ってないし、早くお風呂に入りたい。

「どんな夢だったの?」

 言いながら浅山さんは水が入ったペットボトルを私に渡してくれた。軽く会釈し水を一口飲むと、夢で見た不気味な子供の話をした。話をしているうち、寝る前にも妙な体験をしていたことを思い出し、浅山さんに尋ねる。

「そういえば、寝る前に金縛りにあったんです。動けないと思っていたら、サキが言ってた方角から光が伸びて、車の中に黒い影が入ってきて…私の上に乗ってきてその後夢を見たんです。浅山さんは昨日の夜何かありましたか?」

「いやあ、特に何も感じなかったよ…それも夢だったんじゃ無い?ほら、夢の中で夢を見るって事もよくあるしさ」

 確かに、昨日の出来事はあまりに非現実的だ。開けてもいないドアから何かが侵入してくるなんてあり得ない。まして、あれだけドアをバンバン叩いていたのだ。浅山さんが気がついて起きない訳がない。

「寒いけど、幸い天気は良いみたいだ。早速昨日言っていた場所に行ってみるかい?」

 私は夢の中の少年が言っていた「帰れ」という忠告が一瞬頭によぎったが、ここまで来て引き下がれるかという思いもあったので浅山さんに軽く頷いて、パーカーを羽織ってポシェットを肩にかける。浅山さんと一緒に車から出ると、パーカー一枚では風邪を引きそうなくらい寒い。完全に山を舐めていた。身震いしていると、浅山さんがダウンジャケットを貸してくれた。
 さて、昨日サキが示していた方角は……?目印になりそうな物が何も無いので、思い出しながらぐるぐるその場を回る。

「なんだこの汚れ?どっかで泥でもはねたかな?」

 車のサイドを見ながら浅山さんが呟く。近づいてみると、ガラスには赤茶色の汚れが大小無数に散らばっていた。しばらく眺めて、これが何なのか気がついた私は思わず手で口を覆った。

「これ、手形だ……………」

 夜の出来事はやっぱり現実だったのだ。さすがの浅山さんも顔を引きつらせて、

「マジか…」と言うしか無かった。

 車の位置と昨夜電話を受けた位置から、サキの示していた方角を思い出し浅山さんと共に獣道に入っていく。歩いている途中、浅山さんが木に赤い紐を結びつけ始めた。

「何をしているんですか?」私は訪ねる。

「目印だよ。こうやって目に届く範囲で木に紐を結びつけておく事で、迷ったときに回収しながら戻れば車の所まではとりあえず戻れるだろ?」

 これで良し。とでも言うように浅山さんは結びつけた木を軽く叩く。浅山さんがいると安心だなぁ…と改めて感心した。
 それから1時間程歩いただろうか。木々の間を抜けると、長い間整備されていなさそうな細くて古い道に出た。右方向は曲がりくねっていて先が見えない下り坂が続き、左を向くと遠くの方に建物が見えたので、私たちは左の方へ行ってみることにした。

 そこは小さな神社だった。何年前からあるのかわからないが、人々から忘れ去られたように荒れ放題で殆どの建物は土台を残して崩れ去り、石造りの鳥居とこじんまりとした祠、オンボロかやぶき屋根の納屋がかろうじて残されている程度だ。小さな賽銭箱が置かれた祠の方にいってみると、観音開きの扉が半開きになっていて、中に石造りの人型像がいるのが見えた。
 今度は納屋の方にいってみる。建物の高さは大体私の身長の2倍くらいだ。ぐるっと周りをまわってみる。木製の壁は腐ってボロボロで、いつ崩れてもおかしくなさそうだ。外周は教室の半分くらいだった。
 納屋の正面には引き戸がついていて、私は開けてみようと取っ手に手をかける。軽い音がして、意外にもあっさりと扉は開いた。同時にツンと来る匂いが鼻を刺激する。浅山さんから懐中電灯を借りて、中を照らす。その瞬間、私たちは絶句した。
 布きれや木材の破片があちこち散らばり、壁にさび付いた農具が立てかけられている部屋の奥……人間の骸骨が壁により掛かって頭を垂れていた。

「なんだよこれ…っておい!あんまり近づくなよ!」

 後ろで叫んでいる浅山さんを置いて、私は骸骨をよく見ようと歩み寄る。理科室で見た標本に比べて、薄茶色さが目立つ。生前は子供だったのだろうか、大きさは私よりも少し小さい。力なく床に垂れ下がっている手の中に、紙が握りしめられていることに気づいた。壊さないように手をそっと広げて、紙を取り出す。それはお札だった。握られて少ししわが寄った固めの紙に、ミミズが貼ったような墨の跡がつらつらと記されている。真ん中に『封』と書かれているのがかろうじてわかるくらいで、他は字が古すぎて読むことが出来ない。

「浅山さん、これ読めますか?」

 私は浅山さんに紙を手渡す。

「君って案外度胸あるよね……うーん、さすがに古すぎて解読できないね。真ん中の『封』しかわかんないけど、何かを封印する念を込めたお札っぽいよね」

 何を封印したかったのかは全然わかんないけどね。と付け加えながら私に紙を返してきた。ここにきてますます頭が混乱してきた。昔この場所で一体何があったのか?何故サキはこの場所を指し示したのか?肝心のサキはどこにもいないし……何かが分かりそうで、何も分からない。

「なあ、この仏さんの事は後でちゃんと弔ってやることにして、もう車に戻らないか?俺たちだけでなんとか出来るような話じゃなさそうだ」

「……そうですね」

 悔しいが仕方が無い。私たちは遺体の前で両手を合わせて、納屋を後にした。

 浅山さんが付けた目印を頼りに、車の所まで戻ろうと来た道を辿っている。目印は最初回収するつもりだったが、また納屋の方に行くかもしれないので、一応残していく。

「あの遺体が君の言うサキって子の可能性はあるかな?」

 唐突に浅山さんが話しかけてきた。

「それは違うと思いますよ。だってサキは崖から落ちたんですから、建物の中にいたらおかしいじゃないですか」

「崖から落ちたってのは君の仮説だろ?」

 確かに言われてみればサキに崖まで連れてこられただけで、落ちたところを見たわけでは無い。崖から落ちたんだと私が勝手に思い込んでいるだけだ。浅山さんは続ける。

「君みたいに山道で迷ったその子は、偶然あの納屋を発見してひとまず雨風を凌ぐ目的で入った。納屋を拠点に山を彷徨ったけど何日経っても帰り道は発見できず、結局納屋の中で飢え死にした……って所かな」

 それも一理あるなと思った。現に私たちは昨日さんざん迷い尽くしている。サキくらいの女の子が1人で迷ったならなおさら無事でいられないだろう。浅山さんの考えに納得しかけたが、気になる事がいくつかあった。

「それ、すごくありそうですけど…じゃあなんでサキは1人で何をしにこんな山奥に来てしまったんでしょうか?それに遺体が手に持っていたあのお札は…サキが書いた物?それにしてはさすがに古すぎやしません?」

 浅山さんは腕を組んで唸った。

「…確かに分からないことがまだまだあるな。どっちにしても、これはもう警察の仕事だな。俺たちは早いとこ下山して、身の安全を確保しよう」

 そうしないと俺たちが骸骨になっちまう。と冗談交じりに付け加えた。

 車へ戻る獣道の途中、私たちはいくつもの『視線』を感じていた。最初はなんとなく誰かに見られている気がする程度だったのだが、今は明らかに複数の視線をあちこちから感じる。しかもそれがだんだんと近づいていて、私たちを取り囲もうとしているように思える。浅山さんもそれは感じ取っているようで、真剣な表情で額に汗を滲ませている。

「………このままのペースで行くとヤバいかもな…。」

 浅山さんはそう呟いた後、私に話しかける。

「篠原さん、俺が合図したらこの獣道を一気に走り抜けよう。本当は整備されてない道はしっかりと踏みしめて歩いたほうが安全なんだが、そうも言ってられなさそうだ…なに、目印を辿っていけば車の所までは絶対にたどり付けるから、今は妙な視線から脱出する事に集中しよう。いいかい?」

 私は前を見たまま頷いた。

「よし………いくぞ!」

 浅山さんの小さなかけ声と共に私たちは一目散に走り始める。嫌な感じの視線達が次々と後方に、遠くに離れていくのを感じる。しばらくすると目の前にワゴン車が見えてきた。私はホッと胸をなで下ろす…その油断が命取りだった。右足を踏み込んだ時に地面が突然ぬかるんで崩れ、バランスを崩した私はそのまま急な斜面を滑り落ちていく…。

 

                                                                                                                         To be continued...

最新施設『VS PARK』に挑戦‼︎

5月31日、大阪の万博記念公園内にあるEXPOCITYに行ってみました。

www.expocity-mf.com
かつて存在したエキスポランドの跡地に作られたこの施設は、映画館や水族館など様々な娯楽が楽しめる複合施設となっており、今回はその中でも超最新の『VS PARK』に挑戦。

bandainamco-am.co.jp
ここはバラエティ番組にあるような大げさなアトラクションが楽しめ、ストラックアウトや卓球といった従来の遊びに最新映像や特殊ルールが加わった今までの遊びに飽きた人にはうってつけの施設です。

今年の4月に開始したばっかりなので、ブログネタとしてもおいしい。話題性も高い。

友人2人を引き連れて、2時間遊び尽くしてやりました!

【遊んだ No.1 低音卓球】
紹介文(公式サイトより)
〝予測不能なバウンドと光の演出。360°使える円筒形の卓球台でアガる〟

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ごめんなさい、いきなりなんですがぶっちゃけ面白くありませんでした。
卓球台の後ろにスピーカーが設置されており、EDM系の音楽が鳴ってはいるんですがイマイチ低音が来てませんでした。
低音を売りにするならもっと内臓を破壊するレベルズシズシ来て欲しかった。そもそもウーファーねぇのに低音とはこれいかに。

卓球そのものも、円形で不規則な動きをするって発想は面白いと思うんですが、摩訶不思議な動きをしすぎてラリーが全く続かないんですよね。

面白いくらいにサービスエースが決まる決まる。出落ちの千本ノック。


もしこれが公式だったなら、幼き日の愛ちゃんは炒飯のCMに出れなかったでしょうね。
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ちなみに撮影した動画を見返したら、地味にピンポン球が台を跳ねる時に「ボヨヨンボヨヨン」言ってたんですよね。やってるときは全く気がつきませんでした。
それこそ跳ねた音を爆音で鳴らすとか、もっと改善の余地はあると思いましたね。

この施設もしかして面白くないかも…と不安がよぎったんですが、その後は見事に挽回してくれました。

 


【遊んだ No.2 アーチェリー】
普通屋外でするアーチェリーを、大型スクリーンを使うことで狭い屋内でも気軽に楽しめるように良改造された遊びですね。

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スクリーンを使っているお陰で通常のアーチェリーよりも狙いがつけやすく、撃った後の映像に映し出される矢の疾走感や的に当たったときの演出がなかなか派手で気持ちが良かったです。

 


【遊んだ No.3 Run&Run】
紹介文(公式サイトより)
〝強力ゴムにつながれてどこまで走りきれる?!(18歳以上)    〟

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スポーツマンNo.1決定戦のパワーフォースのような遊びですね。
2001年元日の清原VS河口はガチ熱戦。

ここではマジックテープ付きのお手玉を持って出来るだけ遠くに走り、同じくマジックテープ付きの台に乗せてその距離を競うという対戦的要素が含まれていたので、友人Sと対決しました。

 

 


見事に完敗。(笑)

 

 


もうね、引っ張る力が尋常じゃ無いの。2~3m走っただけでガキの頃親父に無理矢理引っ張られた時より強烈な引力が全身を襲うの。

つかもう走れてないよね。清原すげーわ。

 

 

 

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友人Sのド派手なすっ転びにアッパレ。

 


【遊んだ No.4 カートコーナー】
紹介文(公式サイトより)
〝スピンやドリフトも楽しめるクレージーカート(電動カート)やINMOTION、なごみ系アニマルライドのポニーサイクルに乗れる!〟

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INMOTIONというセグウェイっぽい乗り物があって友人Kが興味を示し挑戦。
僕はやらずに撮影に専念しました。

友人SとKがスイスイーと移動する様は軽やかで快適そうでした。
22世紀の移動手段っぽいですよね。ドラえも~ん。

 


【遊んだ No.5 カーリング
紹介文(公式サイトより)
〝「氷上のチェス」カーリングを再現!〟
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先述のアーチェリーと似たような奴ですね。
最近流行のカーリングですが、体験するのは中々難しい…こうやってお気軽に出来るのは良い時代になったということですね。でも不自然な動きだしルールも簡易化されてるし、カーリングガチ勢には納得できない所もあるっぽいですが、僕は結構楽しめました。

 

youtu.be魔球(魔石?)、投げちゃった☆

余談ですが2010年バンクーバー五輪本橋麻里選手が好きでした。
しかも調べたら誕生日一緒だった。なんか嬉しい。

 


【遊んだ No.6 ワーワードッジ】
紹介文(公式サイトより)
〝声でドッジボール?!新感覚アクティビティ!〟

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メガホンに向かって声を出すと、床に光の玉が現れて相手の陣地に飛んでいき、いかに沢山相手にぶつけるかという対戦ゲームです。
声を長く出すことでゲージが溜まって必殺技が撃てたり、細かく発声することで連射が出来たりと、意外と戦術性の高い遊びです。

コレも友人Sと対戦してみましたが、齢27のおっさんが床に向かって「ハァハァ」叫びながらふらふら歩きまわる姿は異様そのものでしたね。

 


【遊んだ No.7 トスバッティング】

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内容自体は普通のバッティングセンターと変わらないのですが、実況や歓声が付いて、本当にプロ野球の打席に入ったような臨場感が味わえます。

気になったのは、距離の関係でボールの排出口が低いせいで全映像がアンダースローな事と、空振りしようがゴロになろうがヒットになろうがお構いなしにイニングが進んでいくガバガバ進行。リアルの野球がこれだったら試合30分で終わっちゃうね。

 


【遊んだ No.8 ピッチング】
こちらもプロのマウンドに立ったかのような臨場感の中出来るストラックアウトで、映像に写ったバッターボックスに向かってボールを投げてストライクや球速でスコアを競います。

この競技は映像を撮り忘れてしまいました…

 


【遊んだ No.9 パニックキューブ】
紹介文(公式サイトより)
〝時間内にナゾを解かないと巨大風船が爆発!〟

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この施設至上最もバラエティ番組っぽい娯楽。
巨大風船が膨らむ部屋に閉じ込められ、壁に映し出される問題を知恵と勇気を使って解いていき、風船が爆発する前に脱出しようというコンセプト。

 

 


まあ、見事に爆発させてやりましたよ。

 

 


割とね、問題が理不尽だったと思う。
寿命が10分くらい縮んだんじゃねーかな。

 


【遊んだ No.10 ワンダーウォール】
紹介文(公式サイトより)
プロジェクションマッピング融合の新感覚ボルダリング

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光ったところのブロックに触れることで花火が上がり、得点が加算されていくというルール。反射神経と握力と判断力が問われる中々難しい遊びでした。

 


【遊んだ No.11 スラックライン
紹介文(公式サイトより)
〝わずか幅5cmのライン上でバランスをとり、様々なポーズや技を楽しめる新スポーツ〟

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これは割と有名じゃないですかね。イッテQあたりで誰かやってた気がするし。

 


【遊んだ No.12 Jump×Jump】
紹介文(公式サイトより)
〝回転する障害物から逃げ切れるか?〟

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期待外れNo.1アトラクション。

回転する2本のバーをジャンプしたりかがんだりしてひたすら避けるというコンセプトなんですが、バーが遅すぎて焦りが無いというか、ガードレールを越える感覚でひょいっと越えられちゃうので何の危機感も持てなかったです。
やる前のイメージでは本気で逃げないと両足複雑骨折するくらいのドキドキワクワクがあったんですが、蓋を開けてみれば「おじいちゃんか!」というくらいのノロノロ具合。
あとバーが太すぎて1回のジャンプじゃ越えられないのも不満。
スピードを3倍以上にして、バーの太さは半分以下の方がスリリングに楽しめると思いますよ。
安全性がどうだって話もありますが台もバーもその他も何もかも柔らかい素材で出来ているんだからよほどのスペランカーじゃない限り怪我しないと思います。


少なくとも18歳以上でこれはちょっとお粗末なクオリティじゃ無いでしょうか。

 


ここまで遊んだところで2時間が経ち、終了しました。
他にも様々なアトラクションがあり、まともに全部遊ぶには6時間くらいは必要かなぁと思いました。
2時間で一般2700円、以降1時間延長毎に1080円加算という料金システムでしたが、時間制限があるとやっぱり焦っちゃって遊びに集中しにくいので、5000円でフリータイムとかにして中でのんびり食事や休憩も楽しめるような要素があればより充実して楽しめそうですね。

ともかく、新感覚の遊びが体験出来てとても楽しかったです。
普通のゲーセンやスポーツに飽きた人、USJひらかたパークに飽きた人なんかは一度立ち寄ってみてはいかがでしょうか。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

<お店の情報>

店名:VS PARK

オープン日:2018年4月7日

場所:大阪府吹田市千里万博公園2-1 EXPOCITY内

電話番号:03-6369-7186

営業時間:10:00〜21:00 (土日祝 9:00〜21:00)

料金(2時間):一般・2700円、学生・2160円、小学生・1620円

(アプリ使用で一般は200円引き、学生・小学生は100円引き)

料金(延長1時間):一般・1080円、学生・860円、小学生・640円

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

退職日前の12日間、旅に出てみた。

久々の日常系の投稿になります。
5/29~6/10の期間で東京を離れて西日本の方に旅に出てみました。

目的としては
①長い間会っていなかった人に会う
②本やTVだけではわからないことを体験する
おいしいモノ食べる
④引きこもりがちなので運動する
この辺がメインだったわけですが、おおむねやりたいことは出来たので非常に満足度の高い旅となりました。

日程だけおさらいしますと
5/29 午前・東京 午後・大阪
5/30 1日・大阪
5/31 1日・大阪
6/1 午前・大阪 午後・兵庫
6/2 1日・大阪
6/3 1日・大阪
6/4 午前・兵庫 午後・岡山
6/5 午前・岡山 午後・山口
6/6 午前・山口 午後・沖縄
6/7 1日・沖縄
6/8 午前・沖縄 午後・長崎
6/9 1日・熊本
6/10 午前・福岡 午後・東京
と、前半の大阪ラッシュからの後半の放浪っぷりがすごい。
ジョジョ5部の護衛チームぐらい数日であちこち移動してる。

5月末から6月上旬という梅雨まっただ中での旅にもかかわらず、雨に出くわしたのは12日間中4日(内2日小雨)のみと天候に恵まれた上、シーズンオフだからどの場所でもほとんど待たずに入れたのでストレスなく過ごすことが出来ました。

各日の細かいエピソードは後日別記事にするとして、いきなり総括を語らせていただきます。
まず、思ったのは「やっぱり会いたい人には、会うべきだなぁ」ということ。
今回会った人の中には学生時代以来7年振りに会った人や、(僕と入れ替わるように)仕事が始まってしまって中々時間がとれない中、会ってくれた人もいました。
この人たちと交流するようになったきっかけは、学生時代にたまたま同じクラスだったからとか、たまたま同じ部活だったからとか、たまたま同じ趣味を持つモノ同士だったからとか、本当に些細な偶然ばかりなんですよね。

僕は少年時代、各地を転々と移動する日々を送った時期があり、新天地で新たな関係を築こうとしても数ヶ月で大きな力により突然関係が切られてしまうという経験を何度もしました。色んな大人や同級生と関わりましたが、ほとんどが3ヶ月にも満たないような短い繋がりで終わっていて、もう一生会わない、会えないだろうなって人が沢山います。

だからこそ、自分と関わった人のことは大切にしたい。会いたいと思うなら生きている内に会いたい。その気持ちは前から強かったんですが、今回の旅でより強く実感しました。
この機を逃すと、もう2度と会えないかも知れない。だから、会える時に会いに行く。これからもそのスタンスは変わらずいきたいですね。

後、リアルな体験をするのは1番自分を成長させるなぁということが学べました。
今回沖縄に初めて行ったわけですが、海の綺麗さや、自然の雄大さ、日射しの強さは現地に行かないとわからないことだったので、特に身に沁みました。
そこに生きる人々のたくましさや、土地の歴史等も学べたので、創作をする上で表現の幅を広げる事が出来んじゃないかと思います。
自然以外では、エキスポシティやゲームカフェなんかも体験して、面白い世界があるものだなぁと良い刺激を受けました。これらの体験も家にいるだけではわからない事だし、一緒に行ってくれる人がいるから出来たので、付き合ってくれた方々には圧倒的感謝ですね。

旅行最終日である6/10は、退職日でもあり、自分の誕生日でもあります。

退職前に良い刺激を多方面から大量摂取できました。
明日以降、色んな意味で再スタートを切る事になるわけですが、あらゆる困難にめげずに立ち向かって行きたいと思います。

オリジナル小説『友達100人できるかな?』第4話

これはおじさんのオリジナル小説です。

毎週水曜日の21時更新を予定しておりますので、暇つぶしに良かったら

見てってくださいまし。

*前回のあらすじ*
サキについて詳しく話を聞くために井川邸を訪問した麻弓。30年前に行方不明となった愛娘を待ち続けて孤独になった井川さんに心を打たれ、サキを見つけてちゃんと弔うことを約束する。捜索の足がかりとして自分を助けた登山家に目をつけ、連日SNSを調べついに登山家を特定、駅前の喫茶店で会う約束をするのだった。

第4話 <現場検証>

 日曜日、約束の時間よりも30分早く喫茶店『イエスタディ』についた私は、人生初の喫茶店を前に妙に緊張していた。元々は心配だからと母も同行する予定だったが、急に職場でヘルプを頼まれたので行けなくなり、結局菓子折だけ託されて1人で浅山さんと会う事になってしまった。母がメールのやりとりを見て浅山さんの誠実さが伝わり、1人で会わせても問題無さそうと判断してくれたのはラッキーだった。
 木製のレトロな雰囲気のドアを恐る恐る開ける。からんからんとドアベルの音が店内に鳴り響き、可愛らしい制服の女性店員がやってきて、人数を確認してきた。私は人差し指を立てて店員に見せ
「30分後くらいにもう1人来ます」と伝えた。
 こちらへどうぞ、と窓際の2人用のテーブル席を案内される。窓の外を見るとスーツ姿の男性や自転車で併走する私服の中学生、犬の散歩をしながら暇そうにあくびをする老人等、駅前を行き交う人たちの姿が見えた。
 私たちは事前にお互いの見た目の特徴を伝えあっている。浅山さんは黒のダウンジャケットに薄緑色のジョガーパンツを履いた白髪交じりのオールバックで、焦げ茶色のリュックを背負っているらしい。人通りの中でそれっぽい人を見かけるとあの人が浅山さんかな?と自然と目が追いかけていた。
 しばらくして先ほどの店員がおしぼりとお水を持ってきて、注文を訪ねてきた。オレンジジュースかホットココアで少し迷ったけど、結局そのどちらでもないブレンドコーヒーを注文した。せっかく喫茶店に来たんだし、少し大人の雰囲気を味わってみたかったんだよね。

 コーヒーを待つ間、浅山さんの顔を思い出そうとしたけど顔にもやがかかっているみたいでまったくイメージが浮かばない。あの時は訳が分からない事が起こりすぎて顔の特徴を覚える余裕なんて無かったから仕方ないか…ただ、とても怖い顔で怒っていたことだけは覚えている。また怒られたら嫌だな…と1人で凹んだ。気を紛らわそうと再び窓に目を向け、今度は駅の奥に広がる壮大な山々を眺める。この山のどこかに、サキがいるはずだ。誰かに見つけて貰えるのをずっと待っている…早く井川さんの元へ帰してあげたいと私は改めて今日の目的を強く心に意識した。

「お待たせしました、こちらブレンドコーヒーです」

 意識を山の方へ向けすぎたせいで、突然声をかけられて内心びっくりした。店員さんは湯気の立つコーヒーをそっとテーブルへ置くと、
「ごゆっくりどうぞ」とさわやかな笑顔で伝票を置いてカウンターへと戻っていった。
 テーブルに備え付けられている角砂糖1個と、一緒に運ばれてきたミルクを入れ、スプーンでかき混ぜる。口元へカップを近付けると、コーヒーのいかにも苦そうな匂いが鼻を刺激した。ゆらゆらと立ちこめる湯気に2、3回息を吹きかけて、一口すする。

(うへぇ…苦ぁ……)

 やっぱりココアにしておけば良かった。とちょっと後悔する。コーヒーを楽しむことは私の舌ではまだまだ先になりそう…。それからずっとコーヒーにはほとんど手を付けずにスマホでゲームをしていた。
 ゲームに夢中になっていると、

「あのー……篠原さんですか?」

 といきなり声をかけられる。

「へっ?あ、わっ!」

 思わず変な声が出た。ついでにいうとゲームも失敗した。恥ずかしくなった私の目の前に、白髪交じりの中年男性が立っている。

「……そ、そうです。あの……えと……」

 やっぱり初対面(ある意味違うけど)の人って苦手だ。しどろもどろになりながらいつものように目を合わせずにぼそぼそと喋る私に、男性は優しく笑いかける。

「ああ良かった。初めまして、浅山昇です。お待たせして申し訳ない」

 言いながら背負ったリュックをテーブル下にしまった浅山さんは、とても厳しそうな見た目をしているけど柔らかくて丁寧な挨拶をしてくれた。挨拶もそこそこに目の前の椅子に座り、店員さんからおしぼりを渡されてすぐにナポリタンと食後のコーヒーを注文すると

「何か食べる?」

 私の方にメニュー表を向けた。そういえばお昼時だった。そう思ったとたんにお腹が空いてくる不思議。

「じゃあ、オムライスお願いします…」

 丁寧なお辞儀をしてその場を離れる店員を二人で見届けた後、浅山さんが話しかけてきた。

「ここのナポリタン、とても旨いんだ。もう30年ぐらい食べてるけど全然飽きない」

「えっ、そんなにやってるんですか?このお店」

「俺が君の年ぐらいの頃から現役だよ。マスターはさすがに2代目になっちゃったけど、質は昔から全然変わっちゃいない」

 待ち合わせ場所にここを指定した理由が分かった。私もいつまでも通えるいきつけの素敵なお店が欲しいな。

「それはそうと、あの時のこと改めて謝らせてくれ。本当にすまなかった。君が飛び降りると思ってこっちも必死だったんだが……なにも見ず知らずの小学生をいきなり叩くことはなかったなと後からとても後悔したよ」

 浅山さんは深く頭を下げた後、ばつが悪そうに頭をかいた。

「そんな……謝らないでください。あの状況じゃ誰でも必死になって止めますって」

 私は顔の前で手を横に振る。

「病院に運んでくださったし、もしあの時浅山さんに会わなかったらと思うと……本当に感謝しています」
 深々とお辞儀をして、母から預かった菓子折を取り出す。

「これ、受け取ってください」

 我ながらナイスタイミング。

「これはこれは、丁寧にどうもありがとう」

 浅山さんは手を伸ばし菓子折を受け取ると、リュックの脇に置いた。

 それからしばらく雑談をした。基本的に浅山さんが自分の仕事のことや趣味の話をしたりすることが多かったが、適度に私の事も質問してくれて、学校や家、都会に住んでいたときの事をスムーズに話すことが出来たので会話が尽きることはなかった。雑談の間に頼んだメニューが来て、浅山さんが語る『イエスタディ愛』を聞きながらオムライスを食べる。お家でお母さんが作ってくれるような素朴で優しい味だ。
 浅山さんが食後のコーヒーを飲んでいると、私の殆ど手を付けてない冷めたコーヒーに気づく。

「コーヒー、飲まないの?」

「あ、はい…ちょっと苦くて……私にはまだちょっと早かったみたいです」
 私は苦笑いを浮かべる。

「甘い物と一緒なら平気だよ。何が良い?」

 浅山さんはメニュー表を手に取りデザートのページを開いて品定めをする。私も甘い物は食べたいけど、さすがに予算オーバーだ。

「お金もあんまり持ってないので、今日はいいです」

 と正直に断った。そしたら浅山さんは

「俺が払うから大丈夫だよ。なんでも好きなもん頼みなよ」

 と言って私にメニュー表を渡す。アップルパイが目に入り、食べようかなぁと一瞬思ったけどすぐに思い直し

「いや悪いですよ。今日初めて会った人に出して貰うだなんて」

 メニュー表を閉じてテーブルに戻そうとすると、浅山さんはクスッと笑って

「君は変に真面目だなぁ。子供と一緒にいて、払わない大人がどこにいるんだよ。そんなこと気にしなくて良いよ」

 と良いながら自分でメニューを見て

「決めないなら先に頼んじゃおう」

 すぐに店員を呼んで、モンブランを注文した。

「お客様は?」

 続けて店員は私の方にも訪ねる。思わず「じゃあ、アップルパイを」と答えてしまった。
しばらくして私の元に届いたアップルパイは、リンゴの風味が強めの程良い甘さでコーヒーとよく合った。コーヒーを飲むときは甘い物必須だな。
 空腹も満たされた所で、私は本題を切り出す事にした。

「あの…お話ししていた相談したいことについてなんですが…」

「はいはい。俺が助けられることなら何でも来い!」

 浅山さんは明るくニカッと笑う。私はまずサキに関する今までの出来事を全て話した。そして井川さんの元へサキを還してあげようとしている事、浅山さんが飛び降りるのを止めてくれたあの崖まで行けば、サキに関する何かが分かるかもしれないと言うことを伝えた。

「うーむ………」

 腕を組んで何か考え事をしている浅山さん。しばらく間が開いて、話し始める。

「……30年前に少女の失踪事件があったことは覚えているよ。地元で有名な地主の娘さんでしばらくニュースで騒がれていたから、印象に残ってる。にわかには信じがたいことだが、君の本気っぷりを見るにからかっているとも思えん。一度行って確かめて見ても良いが…」

 そう言ったきりまた黙ってしまう。

「どうしたんですか?」

 思ったより長い沈黙だったので、耐えきれず訪ねる。

「……いやあそこはね、曰く付きの場所なんだよ。あの付近は事故も多いし、小学生に言うのも何だけど……その、自殺の名所だったりもするから登山してる連中はまず寄りつかない」

「なんで私を助けたときはあそこにいたんですか?」

「たまたまだよ。普段滅多にないことなんだが、あの日は道に迷ってしまってね。GPSもコンパスもあてにならないから知ってる道を探そうとしていた時に、偶然あの道に出てしまってね。君が目の前をふらふら歩いててそのまま崖から飛びおりようとしてたから、必死こいて止めたんだ」

 知った道に出たお陰で病院にいくまでは早かったから良かったけどね。と付け加えて浅山さんは小さく笑った。

「あの時、サキは見ませんでした?私の目の前にいたんですけど」

 念のため、確認する。

「いや、君一人しか見なかったよ」

 やっぱり、サキは私にしか見えていないのか。

「そうですか……分かりました。その辺のことも含めて、私は全て確かめたいんです。お願いします、あの崖まで一緒に来てくれませんか?」

 私は深く深くお辞儀をする。浅山さんが声を出すまでずっと。

「………………わかったよ。ただし、危ないことは絶対しないこと。何かヤバいものを感じたら、すぐに逃げること。いいね?」

 顔を上げ、真剣なまなざしで頷いた。

 浅山さんが乗ってきたワンボックスに同乗し、山に向かう事1時間。鬱蒼とした雑木林が広がる山道をひたすら登っている。もう何回カーブで体を揺すられたか分からない。なんで車って眠くなるんだろう、特に山道…私は助手席で襲いかかる睡魔と戦っていた…。

「ついたよ」

 はっとなって目を開ける。いつの間にか眠ってしまったようだ。山道中腹の待避所に車は泊まっていて、浅山さんは私を起こすとドアロックを解除した。

「疲れちゃった?」

 後部座席に置いたリュックの中を漁りながら、浅山さんは私に聞く。

「いえ、なんか車って眠くなっちゃうんですよね…すみません…」

 私は少し凹んで、頭を下げた。せっかく連れて来てくれた人に失礼な事をした。

「仕方ないさ。俺だって運転してなかったら5分とかからず落ちてるね。」

 浅山さんは強面だけど優しい。もう一度私は頭を下げる。

「さっ、もう出れる?」

「大丈夫です」

 私は持ってきた手荷物全部、浅山さんはリュックから取り出したポシェットを腰に巻いて、車を降りた。辺りを見渡す。まっすぐに伸びる下り坂と、S字カーブになっていて先が見えない上り坂。ガードレールの向こう側は、見飽きるくらいの木々が連なっている。最初来たときはパニックだったし、日暮れ間近だったのであまり見えていなかったが、思ったより視界は悪くない。曰く付きとか、事故が多いとか言われる理由はいまいち分からなかった。

「君と会ったのは、この先だよ」

 浅山さんは上り坂を指さして、先導する。歩くのか…と正直私は思った。

「なんで車で行かないんですか?」

「ここから先は道幅が狭いし急カーブが続いて、それこそ事故の元になるから」

 S字カーブの先まで歩いたとき、浅山さんの説明に納得がいった。さっきまで車2台分の道幅だったのに、急に1台分スリムになり、10m先が分からない位に入り組んだ山道が続いている。さらに20分くらい歩いて、息が切れそうになる急勾配を登り切ったとき、私はその場所に辿り着いた。
 脳裏に焼き付いた景色と同じだ。強烈なヘアピンカーブの先端から崖下を見下ろす。見ただけで吸い込まれそうで、私はくらくらした。緑色の牙を生やした怪物が、口を開けて待ち構えているみたいだ。

「………何も無いようだね」

 しばらく一緒に見下ろしていた浅山さんは言った。確かにここから眺めても木の先端がとげとげしく連なっているのが見えるだけで、下がどうなっているのかまるで分からない。

「崖下まで行くことって出来ませんかね?」

 私は浅山さんに尋ねる。

「それはちょっと難しいんじゃ無いかな。整備された道じゃないし、なによりこれから暗くなる。危険な事はしないと約束したろう?」

 少し残念……と思いつつ、私はゆっくりと頷いた。

 結局何の収穫も無いまま、私たちは車に乗り込んだ。

「すみません…無理を言って連れて来て貰ったのに、何にも無いなんて」

「気にしなくて良いよ。こっちの都合が良ければまたいつでも車出すからさ」

 運転中の浅山さんは前を見たままそう返した。
 私は左手で頬杖をついて、代わり映えしない景色をぼんやりと眺める。やっぱりこういう事は警察に任せるべきだっただろうか…?でももう30年も前の話だし、なにより私とサキの出会いを正直に説明しても、子供のいたずらと思われてまともに相手にされなさそうだ。

「はぁ…」

 ため息をついたら、ガラスが白く曇る。もうすぐ冬か…夏休みの宿題、早く終わらせなきゃとぼんやり思った。

「あれ?…おかしいな…」

 浅山さんがカーナビを片手で操作しながらつぶやく。

「どうしたんですか?」

 私はナビの画面をのぞき込む。ナビが表示している地図では、山中の道路では無く道が無いところを走っていると示している。

「さっきから現在地ボタンを押しても全然修正されないんだ。今どのあたりを走ってるのか分からない」

 ボタンを押すことを諦めた浅山さんは、再びハンドルを両手で持って前だけをみる。

「え…大丈夫なんですか?」

 不安になった私は思わず周りを見渡す。

「まあ、ずっと一本道だから、いずれは大きい道へ出ると思うけどね」

 浅山さんの横顔を見る。なんとなくその表情は硬かった。

 どのくらい山の中を走ったのだろう。来たときの時間よりは明らかに長い。完全に夜になってしまったので周りの景色が見辛くなったうえ、坂道を登ったり降りたりを繰り返したせいで高低感覚が鈍ってしまい、今どの辺りにいるのかまるで分からない。しかも整備が行き届いていない古い山道だから外灯が一切無いし、周りに他の車も走っていないので、自分たちが乗っている車のヘッドランプだけが頼りなく道を照らしていた。
 迷い始めてしばらくは気を紛らわすためにお互い気を遣って雑談を繰り返したが、さすがに話すことも無くなったか、話している状況ではないと言うことか、いつの間にか二人の間には沈黙が流れていた。聞こえるのは、無機質な走行音だけ。迷っている間、何度かスマホでお母さんに連絡を取ろうとしたが、ずっと圏外で通信が出来ない。

「……………こりゃだめだな…」

 先に声を出したのは浅山さんだった。

「篠原さん、悪いけどどっか適当なところで停めるわ」

「え…どうしたんですか?」

 不安な気持ちが支配していた私の声は震えてしまった。

「ガソリンも残り少なくなってきたし、このまま闇雲に走っても燃料を無駄に使うだけだ。どこか安全そうな所で車中泊して、夜が明けて見晴らしが良くなってから帰り道を探した方が良いと思う」

「そうですか………」

 こんなよく分からない場所で一泊するのは気が進まなかったが、他に良い案も浮かばないし、浅山さんの意見に賛成することにする。
 安全な場所を求めてしばらく走り、やがて他の所よりは道幅もあって視界も広そうな所に車を停めた。エンジンを切って浅山さんは車内のライトをつけ、

「こういうことに備えて、毛布と食料は車に常にしまってあるんだ」

 そう言いながら自分のリュックから懐中電灯を取り出し、車の後ろに積んである大型のボストンバッグを開けて、中を漁り始めた。乾パン、インスタント麺、粉末スープ、水、お菓子等が次々と出てきた後、小さく包まれた毛布が2枚、広げられた。浅山さんは小さなポットと携帯用のバッテリーを取り出し、

「とりあえず飯にしよう。お湯沸かすからカップ麺、好きなの食べて良いよ」

 寒いなと思っていた私は、暖かくなりそうな味噌ラーメンをいただくことにした。
 食事後、体力や携帯のバッテリー温存を考えて早めに寝ることにし、浅山さんは後部座席で毛布をまとい、私は荷台に薄い敷き布団を引いて、毛布を掛け布団にして寝るように言われた。あきらかに私の方が良い条件とはいえ、浅山さんはこういうことに慣れっこかもしれないけど、初体験の私にはなかなか過酷な環境だった。

 

                                                                                                                       To be continued...

 

オリジナル小説『友達100人できるかな?』第3話

これはおじさんのオリジナル小説です。

毎週水曜日の21時更新を予定しておりますので、暇つぶしに良かったら

見てってくださいまし。

 

*前回のあらすじ*
病院で目を覚ました麻弓は、母に体験談を説明するも冗談だと捉えられてしまう。心霊写真や不気味な電話といった現象が起こり、彼女の精神はすり減っていくも、その後は何事も無い日々が続き、次第に恐怖心も薄れていった。それでもサキのことが気になる麻弓は、交換した電話番号に思い切ってかけてみたところ、「井川」と名乗る老婆が出たのだった。

第3話 <人捜しは大変>

 電話をしてから5日後、私は井川さんの家の前に来ていた。ますます真相が知りたくなった私は「サキについてどうしても話が聞きたい」と何度も頼み込み、次の土曜日に井川さんの家に行く約束を取りつけたのだ。
 教えて貰った住所は、地元の駅から電車、バス、徒歩で合計1時間30分ほど移動したところにあった。思い返すと、サキに「どこからきたの?」と聞いたときに彼女が指で指し示した方角に近い気がする。
 外観は古風な日本家屋の大きな一軒家で、立派な門構えが私を威圧する。家の前までついたのは良いけど、緊張してなかなかインターホンを押す勇気が沸かず、家の周りをしばらくうろついて決心が固まるのを待った。再び門の前に立ち深呼吸を3回して気合い一発、インターホンを押す。

「…………はい?」

 電話で聞いた、あのしわがれ声だ。

「すみません。今日会う約束をした篠原です」

「ああ、どうぞ中へ……」

「お邪魔します」

 門をくぐり、玄関まで続く石畳の道を歩く。教室がまるまる1つ入りそうなくらいの広い庭、隅の方で立派な松が1本生えているのが見える。しかし、庭全体は長い間手入れされて無さそうで、雑草があちこちで背を伸ばしていた。庭を見回しながら歩いていると、家から腰が曲がって小さくなったお婆さんが出てくるのが見えた。私が軽く会釈すると、お婆さんもゆっくりと頭を下げる。

「初めまして。篠原です」

 家の前まで着いて改めて私が挨拶すると、お婆さんは深々とお辞儀をし

「初めまして…井川きぬえと申します…ようこそいらっしゃいました…」

 こちらを見てうっすらと微笑んだ。目の下が深く窪んでいて、疲れが溜まっている印象を受けた。

「どうぞお入りください…」

 そういって井川さんは家の中に私を招き入れた。

「お邪魔します」

 靴を脱いで、用意してくれていたスリッパには履き替える。大人が横になっても余裕で収まる広さの玄関に、私の靴が寂しそうに孤立していた。井川さんの後ろをついていき長い廊下の突き当たりの左側に面した部屋に案内される。部屋の一番奥には縁側があり、外にはししおどし付きの池が見える。この部屋だけでも私の家より広そう。想像以上の豪邸っぷりに戸惑い立ち尽くしていると、ちゃぶ台の前に座布団が敷かれた。

「こちらへお座りください…今お茶を出しますので…」

 そう言いながら井川さんはのそのそと部屋を出て行った。しばらく部屋にかけられた掛け軸や彫刻をぼーっと眺めていると、麦茶がたっぷり入ったポットとコップを乗せたお盆を持って、井川さんが戻ってきた。麦茶をそそいだコップを私の前に置いた後、続けて

「お菓子もあるから…良かったらどうぞ…」

 と大きくてふっくらとしたおいしそうな大福も用意してくれた。甘い物は大好きなので内心テンションが上がる。

「ありがとうございます、いただきます」

 お茶を一息のみ、大福を一口かじると、程良い甘さとモチモチとした食感が口の中で広がってとてもおいしい。思わず顔が少しにやけてしまう…そんな私を見て井川さんは優しく微笑んでいる。なんだか恥ずかしくなってお茶を飲んで表情をリセットしようとするも、焦って飲んだせいで気管に入ってむせた。あわてて井川さんは布巾を持って来てくれた。

「す…すみません、なんか…」

 口を拭きながら、謝る。

「いいのよ…あの子も慌てん坊だったから…なんだか懐かしくて嬉しいわ…」

 井川さんはそこに遠い昔が見えているように目を細める。こんな流れになってしまったが、早速本題に入ることにした。

「あの…サキの事、詳しく教えて貰って良いですか…?」

 わかっていますよ、とでも言うように井川さんはゆったりと首を縦に振った。

「…でもその前に、篠原さんのお話が聞きたいわ。サキと会った時のこと」

 私は自分が体験した事を話し始めた。こんな嘘みたいな話を井川さんは話の腰も折らず、否定もせず、時折相づちまで打ってくれたのでとても話しやすかった。全てを話した後、井川さんはゆっくり目を閉じて頭を垂れた。

「………そう、やっぱりあの子は………」

 閉じた目から、一筋の涙が零れている。

「大丈夫ですか……?」

 心配になった私は、井川さんの顔をのぞき込む。

「あら、ごめんなさい。フフ、この年になると涙もろくなるわね…」

 指先で涙を拭うと、改めて私の顔を見つめる。

「じゃあそろそろ、私が知っている紗希の話をしましょうか……」

 私は息を飲み、小さく頷いた。

「私が40歳手前の時にようやく授かった一人娘、紗希は30年前のある日の朝、いつものように学校に行ったきり…そのまま帰ってこなかった……。家族みんなで大騒ぎして、誘拐されたんじゃないかって警察に捜索依頼を出して、自分たちでも思い当たるところは毎日探したわ。でもどれだけ手を尽くしても結局見つからないし、何の手がかりも掴めないまま捜査は打ち切り。それから私は、今日まであの子の帰りをずっと待っているの」

 井川さんは縁側の方を見て、目を細めた。

「あの…この家に他の家族の方は?」

 ふと気になったので質問してみる。井川さんの視線が、縁側から天井の蛍光灯へ静かに移動し、天井をぼんやりと眺めながら深い息を1つ吐いた。

「…もう私以外、誰もいないわ。紗希の帰りを待ち続けて、私の夫も、父も母も皆亡くなりました。……私だけが残って、紗希がいつ帰って来ても良いように、家の状態はなるべく昔の状態を維持するようにしているの」

 私は、かける言葉が思い浮かばなかった。自分の人生より3倍近い時間も、1人娘が帰ってくるのをずっと待っているなんて…。待っている内に順番に身内が亡くなって、ついには独りきりになってしまったその寂しさ、悲しさ、苦しさを共感出来るような経験を私はまだ持ち合わせていない。

「30年前に事件があったときはね、結構大きなニュースになって、全国的に報道されたの。その影響でいたずら電話もすごくて…だから篠原さんの最初の電話を受けたときも、当時うんざりするほどかかって来てたから、最初は「またか…」って思っていたの…ごめんなさいね」

井川さんは私の目を見て頭を下げた。どう答えようか考えていると、

「あ、そうだわ。ちょっと待ってね」

 そう言って井川さんは不意に立ち上がり、部屋を出た。5分ほど待っていると、1枚の紙を持って戻ってくる。

「これ…当時作られた捜索願い何だけど…」

 座りながら、私に紙を見せる。薄茶色に色あせた古紙はなんとも言えない匂いがした。一番上に大きな赤字で『探しています!』の文字、真ん中に白いブラウスと赤いプリーツスカートの女の子がはにかんだ笑顔で右腕にくまのぬいぐるみを抱え、左手でピースサインをしている写真が貼られている。私の知っているサキの姿とそっくりだ。ただ、くまのぬいぐるみは持っていなかったはずだ。

「このぬいぐるみは?」

 写真を指さして、井川さんに尋ねる。

「これはサキが7歳になった誕生日に買ってあげた物で、とても気に入ってくれていつも肌 身離さず持っていたわ。この写真も誕生日に庭で撮ったのよ」

「ちなみに、失踪した当日もぬいぐるみは持っていましたか?」

「ええ、ランドセルに隠して持って行ってたみたいね。あの子内気な性格で友達作るのが上手くなかったから…いつも一緒にいるだけで安心だったんでしょうね」

 私はあごに手を当ててしばらく考える。私が会った時のサキは、ぬいぐるみを持っていなかった。これはどういうことだろう……沈黙していると、井川さんが深呼吸をするようにゆっくりと声を出した。

「……でも篠原さんのお話を聞いて、私ようやく決心がついたわ……もうあの子を待つ事は……諦めます」

 そっと目を閉じて俯く。

「………何でですか?」

 分かっている。今までの話や体験で井川さんが何を悟ったのかは本当は分かっている。でも認めたくなかった。

「だって…あの子は……紗希はもう………」

 顔を上げて私の方を見つめる。両目が充血しているのを見て、つられてこっちも泣けてきた。頭では分かっているけど、認めたくなかった。サキは死んだ当時の姿で、山をさまよっていることを。そうするとあの時花畑を見せて飛び込むように誘ったのは、私をあの世へ連れて行くつもりだったのか…でも、電話では「助けて」とも言っていた。
 知りたい。彼女の本心を。

「………………探しましょう」

 私はほほを伝う涙を拭うと、井川さんに強く言った。

「探すって何を……?だって紗希は」

 うろたえる井川さんの言葉尻を遮って私は続ける。

「多分だけど………自分の事を見つけて欲しいから、私の前に現れて、あの崖までつれて行ったんだと思います。電話がかかってきたときも、あの子「助けて」って言ってました。だからきっと、サキは見つけて貰えるのを待っています。」

「でも、手がかりがないでしょう……?警察が大人数で毎日探しても何も見つからなかったのに……どうやって見つけるの?」

「もう一度あの崖に行きます。サキがあそこから落ちたとすれば、崖下にきっと、あの子はいます」

 どうやってたどり着いたのかは覚えていないし、目が覚めたときは病院だったのでもう一度いける自信は正直全くない。でも私は何かしたかった。目の前で悲しんでいる井川さんと、誰にも見つけて貰えずにさまようサキの事をほっとけなかった。

「………そうね……私も………あの子の事、ちゃんと供養してあげたい………」

 井川さんは顔の前で両手を合わせて、祈るような格好で大粒の涙を流している。その全身は小刻みに震えていた。

「サキの遺体は私が必ず見つけます。だから、待っていてください」

私は目の前で震える小さな背中をそっと撫でた。

 カラスが西の空を見て鳴くころ、家に帰った私はさっそく動き始める。まずは飛び降りるのを止めてくれた登山者を探そうと思っていた。あの人に会うことが出来れば、普段から山に登っている人なら崖の場所まですぐ案内してくれるだろうし、何よりあの時助けてくれたお礼がしたいと思ったからだ。

「ねえ、私を病院まで運んでくれた人って知ってる?」

 私はキッチンで晩ご飯を作っている母に聞いてみた。

「どうしたの急に?」

「ちょっと会ってお礼がしたいな、って思っただけ」

 目的はそれだけじゃ無いんだけど…念のため秘密にしておく。

「名前だけ知ってるわ。麻弓が入院しているって病院から連絡があった日に、お医者さんに誰が発見したのか聞いたのよ。確か…浅山さんっていう地元の登山家の人らしいわ」

 キャベツを切りながら答える母は、切り終わったキャベツをボウルに移していく。

「でも、会うのはちょっと難しいんじゃないかな」

「なんで?」

「直接会ったわけじゃないし、病院でも住所までは教えてくれないと思うよ」

 水気たっぷりの野菜たちがフライパンに入っていき、パチパチと油が弾ける音が響く。

「そっか………」

 なんとかして浅山さんに会う方法はないものか…。あごに手を当て考える。

「でも偉いよ。あんたがお礼したいなんて言うと思わなかったわ。ちょっと前は誰かに挨拶する事すら恥ずかしがって出来なかったのに…入院してからちょっと変わった?」

 言われてみれば、最近自分から色んな事に積極的に行動しているような気がする。サキと会ったせいかな?

「もしかしたら、地元の登山クラブや同好会のメンバーだったりしてね」

 母からのアドバイスを聞いて、私ははっとした。

「ありがとう、探してみるね!」

 早速スマホで登山関連の記事の検索を始める。しばらく夢中で探していたけど、晩ご飯が出来たので食べる準備をするのに一時中断する。

 毎日暇な時間を見つけては、地元周辺で活動している登山グループのホームページの記事をしらみつぶしにチェックする。田舎町だからすぐに見つかるだろうとたかをくくっていたら思った以上に活動している団体が多くてブックマークが数日で10個以上増えてしまった。
 検索を開始して1ヶ月ほど経ったとき、あるサイトで気になる記事を発見した。

 【投稿日】2018.8.22
 【タイトル】『やめよう!命のポイ捨て!』
    
  どーも!登山大好きノボルです(^o^)/

  先週末1人で山に登ったら、珍しく道に迷ってしまいました…(^_^;)
  コンパスもGPSも効かないし、はてさて困ったなぁ~と歩きまわって

  ようやく自分が知っている道に出たときの安堵感はそれはもう凄かったですよ!

  何年登山を経験しても、油断は出来ないですね。

  ちょっとここから真面目なお話になるんですが、知った道に出て

  安心していたら、ガードレールの際に立って崖を見つめる小学生くらいの

  女の子を見かけました。
  
  そこは地元の登山家では有名な自殺スポットで、嫌な予感がするので近づいて

  いくと、ガードレールに足をかけ始めたではありませんか!!(゜∀゜;ノ)ノ

  思わず大声で止めてしまいました。

  私は「自殺は良くない」とつい説教してしまったのですが、
  女の子は「友達と花畑に遊びに来ただけ」みたいなことを言っていました。
  話がどうにも噛み合わないなぁと思っていたら、急に女の子が震えだして
  その場に倒れてしまった!Σ( ̄□ ̄;)

  すぐに自分の車に乗せて、病院へ連れて行きましたが…大丈夫かなぁ~。

  小学生の女の子が1人でどうやってあんな山奥まで辿り着いたのかは

  わかりませんが、せっかくの命を自ら断つことは非常に辛く悲しい事

  だと思います。
  
  山で空き缶をポイ捨てするように、自分の命も捨てないで欲しいです。

  私が山登りの楽しさを教えれば、死にたい気持ちなんて吹き飛ぶかも

  しれません。


  みなさんも決して自殺目的ではなく、健康管理やストレス解消の為、

  どんどん山登っていきましょう!

  それではまた!\(^o^)/


 これは自分の事だと確信した私は、思い切って『私は浅山さんに助けられた小学生で、篠原麻弓と言います。直接お礼がしたいのと、お話したいことがあります。いつかどこかで会えませんか?』とメールを送ってみた。
 3日後に返信が来た。『浅山登です。まさか本当にあの時の女の子?あの時は叩いたりしてすみませんでした。お礼だなんて、そんなにたいそうなことはしていませんので、お気持ちだけちょうだいします』と断られてしまった。
 それでも諦めずにメールを送り続けて数日が経ち、ついに私の熱意に根負けしたのか、来週の日曜日の正午に隣の町の駅前にある喫茶店『イエスタディ』で母を含めた3人で会う約束をした。記事を発見してからもう1ヶ月が経とうとしていた。

 

                                                                                                                       To be continued...