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日記・好きな事の考察や感想・オリジナル小説等を書いていきます。

オリジナル小説『友達100人できるかな?』第9話

これはおじさんのオリジナル小説です。

毎週水曜日の21時更新を予定しておりますので、暇つぶしに良かったら

見てってくださいまし。

*前回のあらすじ*
丑三つ時になり、サキに電話をかけた麻弓だったが、既に100人殺しは達成されてしまったと聞いて諦めがよぎる。しかし最後の1人を殺し損ねていた事が判明し、代わりに麻弓を最後の1人にすべく襲いかかって来た。タイミングを見計らってくまのぬいぐるみを見せ、呪文を唱える事に成功し、ついにカクマの呪縛から解き放つことが出来たのだった。

第9話 <サキの過去>

 抱き合って喜びを分かちあう私たちに、殺意がこもった不快な風が吹いた。目を向けるとカクマが凄まじい形相でこちらを睨んでいる。

「…キサマ…ジブンガナニヲシタカ、ワカッテイルノカ…?」

 音も無く近づいてくるその姿に、私は恐ろしくなってその場から動けなくなってしまった。サキの手を借りてなんとか立ち上がれたけど、その間にカクマとの距離は目と鼻の先まで迫っていた。

「ムクイヲウケヨ…!」

 カクマは私の目の前に立ち右手を振り上げると、そのまま私の頭に向かって勢いよく振り下ろしてきた。もう駄目だと思い目を閉じた瞬間、わずかな風圧が頬を撫でた感触と共にうめき声が聞こえ、目を開けると先ほどよりも5mくらい離れた位置でカクマが頭を抱えている。

「麻弓…それ…」

 横で私を支えてくれているサキが指さしたのは、私の肩にかけられたポシェットだった。全体が淡い光に包まれており、開けると強烈な光が当たりを包み一瞬目がくらんだ。光っているモノを取り出してみると、それは少年の遺体から預かったお札だった。

「…アノコワッパメガ…ドコマデモワタシノジャマヲ…」

 やっぱりカクマはこのお札がある限り私に近付けないんだ。またあの少年に助けられてしまった。

「…ナラバ…!」

 距離をとったまま両腕を広げて唸るカクマ。何をしているのかわからずそのまま様子を伺っていると、

「麻弓、危ない!」

 とサキが叫んだ。言われて身を屈めるより早くサキから横に勢いよく押し倒され、その直後に私たちが立っていた場所を巨大なつむじ風が高速で駆け抜けていった。

「何あれ…」

 つむじ風が通った後の地面はえぐれ、軌道の先にあった木に大きな傷がいくつもつき、葉っぱが大量に舞い散っている。

「『カマイタチ』みたいなモノね…まともに当たると体が傷だらけにされちゃうか、突風でお札を落とさせようとしているのね」

 サキがえらく冷静に解説してきた。

「そんな…どうすれば良いの?」

 相手も近付けないけど、こっちも近付けないならどうしようもない。

「一旦離れて考えましょう。ソレ持ってれば直接触っては来れないから」

 サキの提案に、私は

「じゃあ小屋にいこ。あそこなら少しは風も防げるし」

 と返すと、サキは小さく頷いた。カクマの動きと、襲ってくる風に気をつけながら私たちは足早に小屋へ向かう。カクマは何度か『カマイタチ』を起こして来たけど、直接追いかけてはこない。お札の力で近寄れないからなのか、それとも何か別の狙いがあるのかはわからないけど、少し不気味だった。
 なんとか小屋まで辿り着き、扉を閉めると風の音がかなり小さくなった。でも、至る所からすきま風が吹いたり、たまに屋根や壁がガタガタ震えていて小屋自体がいつ吹き飛ばされてもおかしくない状態で安心は出来ない。

「麻弓…ありがとう。おかげで全て思い出せたわ」

 戸を閉める私の背中にサキが話しかけてきた。

「良かった…本当に…あ、そうだ」

 また泣きそうになっちゃったけど、その前に渡すものがあったことを思い出して、私はポシェットの中を漁り、くまのぬいぐるみを取り出してサキに手渡した。

「30年越しの再会だね」

「ええ…お帰りなさい…」右手に抱きかかえたクマを優しく撫でるサキ。

「どうしてはぐれちゃったの?」私は訪ねた。

「どうせなら色んな事を全部話そうかな…長くなるかも知れないけど良い?」

「私は大丈夫だけど、カクマが襲って来ないかなぁ?」

「それなら多分大丈夫…あの人はきっと…」

 何か言いかけて、サキは辛そうに頭を抑える。

「だ、大丈夫?」

「まだなんとか…じゃあ、私の全てを話すわね…」

 ついに30年前の真相が明らかになる…一言も聞き漏らさないよう集中してサキの声に耳を傾けた。

 



 〝ーーー30年前、学校から1人で帰っていると、知らない男の人に「道がわからなくなったので教えてくれ」って声をかけられた。行き先は…確か繁華街の方。私がその場で説明しても

「それじゃわからないから、車に乗って一緒に来て」って言われたの。嫌な予感がして、逃げようと思って振り返った時に隠れていたもう1人の男の人に薬をかがされた。

 気がつくと、私は車に乗せられていて…山の中を走っていた。隣に男の人が乗っていて「目が覚めたな」とか「大人しくしてれば痛くしない」なんて言ってきた。怖かったから何にも言えずに震えていたわ…そうしているうちに車が止まって、隣の男は私の体のあちこちを触ってきたり、服を脱がそうとしてきた。逆らったら殴られると思ったから、されるがままにしていたんだけど…運転していた男の方が私のランドセルの中を見てこう言った。

「君、井川紗希ちゃんって言うんだ…ってことは井川グループの娘さんかな?年の割に小綺麗な格好してるし、きっとそうなんだよね?たくさんお金くれそうでラッキー」って…。私は何も言えず、心の中で「誰か助けて」ってずっと叫んでいた。

 ランドセルの中を見ていた男が、隠していたぬいぐるみを見つけて

「駄目だよ紗希ちゃんこんなもの学校に持ってきちゃ」って言って窓からぬいぐるみを投げ捨てた。

 何よりも大切にしていたぬいぐるみをそんな風にされて、とても嫌な気分だった。後先考えないで私の口を抑えてた男の指に噛みついて、痛がってる隙にドアを開けて外に出て、ぬいぐるみを拾った。そうしたら噛みついた男に後ろから捕まって、運転してた男が私からぬいぐるみを取り上げると

「こんな幼稚なモンでいつまで遊ぶつもりだよ。2度と取りに行けないよう崖にでも捨てたら、諦めるだろ」

 ってガードレールの方に歩き始めた。後ろで私を抑えていた男の足を思いっきり踏んづけて、痛がって手を離した瞬間にガードレールに向かう男を止めようと走った。捨てられる前になんとか追いついた私は、投げようとしている男の腕にしがみついた。男が振り落とそうと腕を思いっきり振ったら…私はぬいぐるみと一緒に崖下に墜ちていった。

 …そしてカクマ様と出会って、力を授かった私は誘拐した2人をまず殺した。最初は抵抗あったけど、私はあの2人がどうしても許せなかった…。やってみると案外あっけなかった。それでためらいがなくなっちゃって、私は次々と人を殺していった。コウノスケも「辞めて」言ってたし、私自身も心のどこかじゃ辞めた方が良いって思ってたんだけど、あの頃の私にとってはカクマ様の言うことが絶対だったから、身も心も、あの人に捧げていた。
 30年間で95人くらい殺した頃に、麻弓…あなたに出会った。あなたは私と同じような心を持っていた。独りぼっちで…寂しそうな心。もしかしたら友達になれるかも知れない、そう思った。でも、自分はこんな体だし、カクマ様に命令されたら殺しちゃうかも知れない…そう思うと、なかなか話しかけられなかった…何度も何度も様子を見に来て、ようやくあなたの方から声をかけてくれたとき…とっても嬉しかった。
 一緒に遊んでみると、あなたは私とは違った。友達が出来ないって言ってたのが不思議なくらいに、元気で明るかった。一緒にいるとこっちまで楽しい気分になれたの。だけど、遊んでる途中でやっぱりカクマ様が命令してきた。「ソノコヲトモダチニシナサイ」って。命令されるともう自分の意思ではどうすることも出来なくて、せめて自分が落ちた崖まで連れて来たかった。私いつも誰かを殺すときは自分から突き落としたり絞め殺したりするんだけど、あなたにはそれはしたくなかった…でも命令はこなさなきゃいけない。だから幻覚を見せて、誘い込むことにしたの…。

 それが『友達にはなりたいけどトモダチにはさせたくない』って思ってた私のせめてもの抵抗。あのおじさんがいなかったら、今頃一緒にカクマ様の友達作りを手伝うことになってたわ。

 あなたと別れてからの私は、今までよりも「助かりたい」と強く思うようになった。だからカクマ様の目を盗んで電話したり、小屋までの道を案内したりして、何とか私まで辿り着いて貰えるように動いた…1度カクマ様に操られた状態で会っちゃって、本気で殺そうとした事もあったけど…。まさか本当に私の事を探しに来て、取り戻してくれるとは思ってなかったーーー〟

 



「…そんな事があって、こうして今2人小屋の中でカクマ様をどうしようかと考えているというわけ…終わり」

 サキの30年を凝縮した濃密なエピソードが終わり、思わず拍手してしまった。あの少年の名前がコウノスケって言うのも始めて知った。

「じゃあ後は…カクマをどうやって封印するか、それだけなんだけど…」

 私は腕を組んで考える。

「考えがあるわ」サキは自信ありげに言った。

「カクマ様は、光が嫌いなの。強い光で照らされると、光が入らない所に逃げようとするわ。それを利用して、2人でうまく祠まで誘導して、戸を閉めてお札を貼る」

「そんな簡単にいくかなぁ」私は首をかしげた。

「これしかないんだからしょうがないでしょ。他に何かある?」

 自分を取り戻したサキは意外と口調が強い。

「わかったよ。でも光って言うと今はコレしか無いよ」

 私は自分のスマホと、懐中電灯を取り出した。

「後はお札か…じゃあ私が懐中電灯を持つわ。麻弓はお札とソレ持って、カクマ様を挟みうちにして交互に光を当てることで祠まで追い込みましょう」

「まるでサッカーの壁パスみたいね」と私は頷いて懐中電灯を渡した。

「お札を持ってる麻弓には近寄れないから、カクマ様は『カマイタチ』を使ってくると思うの。もしそうなったら体がズタズタにされないようにがんばって避けてね」

「う、うん…」想像して冷や汗が垂れた。

「まあ、私はもう死んでる体だから、どれだけ傷つこうが関係ないけどね」

 そのジョーク、私はどんな反応をすればいいんだろう。自分を取り戻したサキのキャラがイマイチ掴めない。中途半端な笑い方で突っ込みを考えていたら、サキが続けた。

「良い?いっせーのーでで飛び出して、カクマ様の左右につくわよ」

 急に真面目なトーンになり、私も真剣な顔で頷いた。張り詰めた空気…一瞬、風の音がやんだような気がした。

「「いっせーのー…」」

「で!…ってアレ?……サキ!どうしたの!?」

 最後のかけ声を叫んだのは私だけだった。タイミングが狂った私は、サキの方を見ると、頭を抑えて苦しそうにしていた。心配して彼女に駆け寄り手を握る。

「私…もう駄目みたい…」

 サキはそう言って私の胸のあたりに顔を納めると

「…心臓の音、懐かしいなぁ」

 と呟いた瞬間、全身が一瞬で腐り果て、足下からボロボロと崩れていく。一瞬何が起こったのかわからなくて呆然としたけど、彼女の腐敗した手を自分が握っているのを見て、今まで出した事が無いような悲鳴をあげた。

 何故だ?何故サキの体は崩れた?カクマの仕業か?思わず外に飛び出した私の目線の先に、カクマが威風堂々と立ち尽くしていた。

「ソロソロダトオモッテイタヨ…」

 口が耳元まで裂けた気味が悪い笑みを浮かべている。

「サキに何をしたの!?」私は叫ぶように聞いた。

「フッフッフ…トイウコトハ、アイツノカラダモゲンカイヲムカエタッテコトダネ…」

「答えて!なんでサキの体が崩れたの?アンタが変な術使ったんでしょ!?」

「ギャクサ…『ナニモシナカッタ』カラ、サキノカラダハクズレサッタ…アタリマエダヨナァ…イママデワタシノチカラデ、ニクタイヲツナギトメテイタノニ…オマエガムリニカイホウシタカラ…ワタシノジュツガカンゼンニキレタノサ…ツマリ、サキガホロンダノハ、オマエノセイナンダヨ…!」

 カクマは夜空に向かって大声で笑い、私は膝から地面に崩れ落ちた。

「そんな…私が…」

 深い絶望が私を包んだ。ここまでやってきたことを全て否定されたような感じだった。よく考えれば、サキが30年前に既に死んだ事がわかった時点で、こうなることは予想できたのかも知れない。でも、さっきまで会話していた友達が、一瞬で腐り果てるなんて、それが私のせいだなんて…。

「オマエヲショケイスルトシテ…ワタシハ、オマエニチョクセツチカヅクコトハデキナイガ、カゼヲオコスコトデ、ソノミヲキリキザムコトモデキル…ダガ、モットオモシロイショケイヲオモイツイタ…」

 再びカクマの口角がつり上がっていく。右手を高々と上げ、盛大に指を鳴らすと、辺り一面に吹いていた風がピタリと止んで、次第に四方から犬が唸るような音が聞こえてきた。目を凝らして音を鳴らしている正体が見えた瞬間、顔面から血の気が引いた。
 それは、白目をむいた人間の群れだった。全員体のあちこちから血を流したり、皮膚の一部がなくなって骨や内臓が飛び出している。だらしなく開いた口からうめき声を上げ、手を前に出してノロノロとこちらへ向かってくる。

「サッキ、オマエタチガカクレテイルアイダニ、チカバニイタトモダチヲアツメタンダ…」

「あ…ああ…」ゾンビと同じように、私もうめき声をあげていた。足が震え始めたと思ったら、その震えはもう全身にまわっていて、止めることが出来ない。歯までガチガチ鳴っている。

「カレラモ、オマエノヨウスハズットミテイテネェ……トモダチニシタイト、オモッテイタミタイダネェ…」

 山で感じていた妙な視線の正体はこれだったのか。いまさらどうしようもないけど…それにしてもニヤニヤといやらしい笑みを絶やすこと無く浮かべているカクマは本当に腹が立つ。あれは本気で人を殺すことを楽しみにしている顔だ。

「ダカラ、チョウドイイトオモッテカレラニ『トモダチヅクリ』サセルコトニシタヨ…マア、ワタシノジャマヲシタオマエナンカ、イラナイカラスグ『ハザマ』ニトジコメルガネ…」

 『ハザマ』とは恐らくコウノスケ君が閉じ込められている場所の事だろう…このどうしようもない悪霊は、好き勝手に人のこと操って殺しを楽しんで、気に入らない奴はどこにも行かせないように自分が作り出した空間に閉じ込める…本当に最低だ。反吐が出る。
 そうは思っても、もう自分ではどうすることも出来ない、私の周りは既にゾンビが取り囲んでいて、もういつ襲いかかられてもおかしくない状態だ。カクマがあれだけ自信があると言うことは、おそらくゾンビ達に対してはお札は意味が無いのだろう。逃げたところでカクマの『カマイタチ』が待っているし…何よりたった1人じゃ封印なんて出来るわけが無い。駄目だ…完全に終わった…。悔しくてたまらなくなった私は俯いて、下唇を噛んだ。

「サア…ワタシニサカラッタコトヲ、トワニコウカイスルガイイ!!」

 カクマの一声と共に、ゾンビ達がひときわ大きいうなり声を上げて私に覆いかかってきた。私はギュッと目をつむって歯を食いしばり、せめて痛みが一瞬で過ぎる事を願った。しかし、ゾンビ達は醜いうめき声を近くで浴びせるだけで、いくら待ってもその痛そうな爪や凶悪な歯で私に襲いかかってくる気配が無い。

「ソンナバカナ…キサマハ…!」

 カクマがうろたえている。一体何があった?恐る恐る目を開けると、私もカクマと同じようにうろたえてしまう。
 私の目の前には、白い光をまとったサキが立っていた。

 

                                         To be continued...