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日記・好きな事の考察や感想・オリジナル小説等を書いていきます。

ショートストーリー『深夜の公衆トイレ』

これから定期的に、いろんなジャンルの短いお話を書いてみようと思います。僕は話を考えるといつも設定を盛りすぎてだらだら長引かせてしまうので、いかに短く、面白い話が書けるかという練習がしたかったのです。

本当は昨日の晩のうちに投稿したかったのですが、いかんせん仕事が忙しく朝になってしまいました…。深夜テンションで考えたお話なので、朝から見るには若干キツイお話ですが、どうぞ読んでください。

 

また、今回のジャンルは『サスペンス』となっております。猟奇、狂気描写があるので苦手な方はご注意を。

 

 

 

都内のはずれにある某駅に、よれよれになったスーツを着た若者がいた。改札を抜け、駅の出口へ向かいながら腕時計を見る。

(やれやれ、今日も終電か…最近忙しいなぁ)

彼はため息をつく。新卒で入社した会社が秋頃から繁忙期を迎え、最近は日付をまたいで家に帰ることも増えた。彼の家は駅から徒歩約15分のところにある。いつも途中でコンビニに立ち寄り、晩飯の弁当と酒、つまみを買って晩酌をするのが毎日の楽しみだ。

そんないつもと変わらない自宅への帰り道、不意に尿意を催した彼は人気のない公園を見つけ、そこの公衆トイレで済まそうと考える。中に入ると、小便器の水洗ボタンの所に『使用禁止』の張り紙。

(仕方ない、個室でするか…)

2つの個室の内、1つは使用中だった。彼は空いている方の個室へ入り、鍵をかけて安堵の息を漏らす。ベルトを外そうと手をかけた時、隣の個室からうめき声が聴こえた。彼の手と息が止まる。隣の壁に耳を当て、様子を伺ってみると、床を踏みしめる音と、布が擦れあうような音がした。

(なんだ…?何をしている…?)

尿意はすっかり引いてしまい、代わりに隣で何が起こっているのか知りたい気持ちが抑えられなくなった。便器に足をかけ、てっぺんの縁を掴んでこっそりと隣を覗く…そこには血塗れになった半裸の女性と、床についた血痕を必死に拭き取る男がいた。女性の腹部には鋭利な刃物が突き立っており、苦悶の表情で天を仰いでいる。

彼は頭が真っ白になったが、かろうじて悲鳴は押し殺す。音を立てないようにそっと便器から降りようとしたとき、気配に気づいたのか男が顔を上げた。慌てて身を隠し、口を抑えて乱れた呼吸が漏れるのを防ぐ。心臓の高鳴りが外に漏れているような錯覚を覚える。

便座に座ったまま震えていると、隣の個室のドアが開く音がした後、こちらのドアを2回軽くノックされた。

「…すみません紙なくなっちゃったんで、そちらからひとつ貰えますか?」

物腰柔らかそうな男の声。しかし彼は沈黙を決め込む。『絶対に開けてはいけない』と本能が警鐘を鳴らしている。

「どうしたんですかー?出てこれないんですか?」隣の男はノックを繰り返す。

「どうして出てこないんですかー?」最初は軽い音だったのがだんだんと叩く強さが増して来た。

「もしかして、見ましたか?そうなんですね?出てこないということは、そういうことですね?」

こじ開けようとしているのか、取っ手を闇雲に動かし始めた。

「……おい!なんとか言えよ!見たのか⁉︎見てないのか⁉︎どっちなんだ?」

彼は悩んでいた。素直に「見た」と言ったらおそらく無事では済まないだろう。では「見てない」といえば見逃してくれるだろうか?明らかに男の態度が悪くなったことから、関わり合いになること自体避けた方が良い気がする。結局口を抑えて全身を恐怖で小刻みに震わせる事しか出来なかった。

「開けろ!開けろ!開けろ!開けろ!」取っ手だけでなく、ドア全体を殴り、蹴る衝撃が伝わる。

彼は早くこの時間が過ぎてくれる事を祈った。…どれくらい経ったのかわからないが、いつのまにかドアを叩く音が消えており、それに気づいた瞬間ホッと胸をなでおろす。しかしドアを開けて外を確認する勇気は湧かなかった。このまま朝まで待っていた方が安全かもしれない。そして朝一で警察に行こう。そうだ…そうしよう。突如降りかかった恐怖で異常に神経をすり減らしてしまったのか、彼はそのまま気を失うように眠ってしまった。

…ああ、せめてその前に天井からの気配を感じられれば良かったのに。


翌朝、公衆トイレから1人の男が出てくる。

(やれやれ助かった。見つかっていたらどうなっていた事か…)

男はそのまま、朝靄のかかる住宅街へ消えていった。

 

その日の夕方、テレビのニュースで『公衆トイレの個室から男女の刺殺死体が発見された』と報道され、警察の調べによると男性の遺体の指紋と現場に落ちていたナイフについた指紋が一致した事から、女性を強姦殺害したのち自殺した可能性が高いとの事だ。男性が勤めていた会社では長時間残業が続いており、気を病んでいたのではないかとインタビューを受けた男性の知人は語っている。

「これは現代社会が抱える闇を体現した深刻な事件ですよ!」

何も知らないテレビの出演者のコメントを聞いて、男はほくそ笑んだ。

 

さて、次はどこに行こうかな?